【短縮位による、姿勢と痛みへの影響 】
【短縮位による、姿勢と痛みへの影響】
今回は、筋の短縮位による姿勢と痛みへの影響についてです。
ここで言う短縮位とは、能動的に行う筋収縮ではなく、受動的に筋の起始停止が近づき短縮している状態を指します。
例をあげますと、
俗に言う猫背で座っているときの腹直筋をイメージしてください。
この時、骨盤後傾、胸椎屈曲で恥骨と肋骨が近づき、腹直筋が短縮位になっています。
イメージができましたら、治療でみておいた方が良い前鋸筋も含めて短縮位をみていきます。
前鋸筋が短縮位になりやすい姿勢に、スウェーバックポスチャー(sway back posture)があります。<以下スウェーバックで記載>
これは頭部が前方変位、胸椎が後方変位(屈曲)、骨盤が後傾・前方変位の姿勢です。
変位はその方向への水平移動で、骨盤より上半身の質量中心が後方にあります。

先に骨盤からみていきますと
骨盤が後傾になると、腰仙角、及び下位腰椎の伸展が増大し、圧縮ストレスや腰部脊柱管狭窄症のリスクが高まります。
逆に上位腰椎は屈曲傾向になり、伸展がしにくくなるので、この姿勢でバレーのスパイク動作を行えば、下位腰椎の過剰な伸展と回旋で下位腰椎分離症の発症も推測できるのではないでしょうか。
スウェーバックでは、骨盤は後傾しながら前方変位していますので、股関節は伸展位になります。これにより股関節前面の伸張ストレスが増大、逆に大殿筋、ハムストリングスが短縮位になります。短縮位の筋肉は遠心性収縮がしにくくなりますので、股関節屈曲が出にくくなります。
ジャンプ動作や着地、ディフェンスでの構えなど、トリプルフレクション(股関節、膝関節、足関節の屈曲)が必要な場面で股関節の屈曲が足りないと、足りていない屈曲分を膝関節や足関節で補おうとします。
結果として、過度な膝関節屈曲により、オスグッドシュラッター病などの膝前面の痛み、そして、過度な足関節の背屈によりアキレス腱牽引ストレス増大から、踵の痛みが出やすくなります。
踵に関しては、スウェーバックでは後方重心になりやすいので、合わせて圧縮ストレスも高まります。それにより、シーバー病(セーバー病)も推測されます。
代償動作は膝関節と足関節だけではなく、腰椎の屈曲で股関節の代償をする場合もありますので、プレー中に監督に猫背と言われる選手は、これが原因かもしれません。
そしてスウェーバックの時、 胸椎が後弯して肩甲骨が外転するので、前鋸筋は短縮位となります。
前鋸筋の作用は、代表的なところで肩甲骨の外転、上方回旋です。前鋸筋の上方回旋と小胸筋の下方回旋が打ち消しあい肩甲骨を外転させます。

スウェーバックでは、胸郭が骨盤より後方に変位しますので、胸郭を前方に変位させて行く必要があります。
試しに胸椎後弯姿勢を作り、そこから肩甲骨を内転させようとすると勝手に胸椎が伸展し、胸郭が前方変位していくのが分かると思います。
つまり改善させるためには、短縮位となった前鋸筋をリリースして、ストレッチをした後、遠心性収縮を入れて、肩甲骨を内転させていく必要があります。
また、前鋸筋は広範囲で肋骨に付着するため、伸張しにくくなると胸郭の動きを制限することになります。バドミントンやバレー、野球の投球などの片腕を振る動作で体幹の側屈が必要な場合に胸椎レベルの側屈ができないと、腰椎の側屈が過度に出て腰部の障害に繋がりやすくなります。

さらに、前鋸筋の短縮で肩甲骨の内転が出せなくなると
先ほどのスポーツ動作の時に、上腕肩甲関節での水平伸展動作が大きくなり肩前面の伸張ストレスの増大します。
合わせて上位胸郭後方変位による肩甲骨前傾の影響で後傾しにくくなるので肩の障害がさらに出やすくなります。
基本的に、身体は動かない部位があると、他の部位が大きく動いて補おうとするので、そこがover useの原因となり、痛みが出やすくなります。
Over useは柔道整復でいう、亜急性損傷の一つで、足関節捻挫や大腿部の打撲などと違い、いつ痛くなったか分かりにくい痛みに多いです。
患部ではないところに痛みの原因があるので、全体的な姿勢評価や動作分析が必要となります。「休めばよくなるけど、動くとまた痛みを繰り返す」これは治療をしているとよく聞くフレーズだと思います。
炎症の改善や組織修復がされても根本的な原因が解決されていないとover useでまた痛くなります。
スウェーバックでは両側の前鋸筋が短縮位になった状態ですが、片側が短縮位になる場合があります。
それは胸椎が後方回旋した場合です。
最初はイメージしにくいかもしれませんが、画像のように肩甲骨の位置を変えずに、胸椎が左後方回旋していくと、結果として左肩甲骨外転位で前鋸筋短縮位、右肩甲骨内転で菱形筋短縮位になります。


このように姿勢によっておこる短縮位と伸張位を見極められると、治療における推測、行動、修正の繰り返しの助けになると思います。
股関節で、この短縮位、伸張位の考え方の例をあげると
立位での右骨盤挙上位は、足部は接地して固定されるので、右股関節内転位で内転筋の短縮位
左股関節は外転位で中殿筋の短縮位となります。

以前、診させて頂いた右大腿骨頸部疲労骨折圧迫型の方は、立位では右骨盤挙上位でした。歩行時、右内転筋が短縮位にあれば、右立脚期に股関節の内転が強くなり、大腿骨頚部内側の疲労骨折部の圧迫ストレスは増大すると思います。実際にこの方は立脚期に無意識に上半身を右に大きく振り、右の股関節を外転させ圧迫ストレスを避けるように歩いていました。
このように、短縮位や伸張位を見極められるといろいろな事が見えてきます。
骨盤や下肢にアプローチしても痛みがとり切れない場合は、
前鋸筋など、身体全体の短縮位をみられると治療の幅が広がるのではないでしょうか。
前鋸筋に関する記事ははこちら
姿勢分析に関する記事はこちら
【姿勢分析・動作分析を始めたばかりの方へ】Swayback姿勢が身体にもたらす力学的な意味と姿勢の見分け方
動作分析と治療マネジメントホームページ
動作分析と治療マネジメント | 歩行と姿勢の分析を活用した治療家のための専門サイト【医療従事者運営】 (arch-seminar.com)
<参考文献>
・スペシャリストセミナー
アーチ鍼灸整骨院

【柔道整復師】松本 朝臣



