『股関節はなぜ詰まるのか?OAと回旋の関係性』
【なぜ「股関節の詰まり」を掘り下げていくのか】
皆さんは股関節の詰まりに対して、どう改善していますか?
臨床現場において
・「股関節を曲げると前が詰まる」
・「歩行時に足の付け根に何かが挟まったような違和感がある」
という訴えは一般の方のみならずスポーツ選手にも非常に多く聞かれます。
これに対し、多くの治療家は腸腰筋のストレッチや関節包のモビライゼーションを選択しますが、
数日経過し以前と同じ症状が再発するなど一時的な改善に留まるケースも少なくありません。
特に股関節OA症例においては、関節の変形により可動範囲が狭くなるケースが多くみられます。
さらに、外旋拘縮が加わることにより歩行時に必要な回旋が行いにくくなります。
その結果、床から受ける力(床反力)を股関節で適正な動きに変化させることが出来ず、
股関節周囲の組織に負担が集中し「詰まり」として感じられることがあります。
今回は、
股関節の「詰まり」の考え方と、
股関節OA例、特有の歩行である回旋運動の低下等が
いかにして足部のフリーモーメント(FM)を増大させ股関節のみならず足部へとその代償を波及させていくのか、
そのメカニズムをお伝えしていきます。
*FMとは、歩行時における床反力垂直軸まわりの回旋モーメント。いわゆる、「足圧中心周りのトルク」
目次
・股関節前面の「詰まり」の正体とアライメント評価
・股関節OAにおける「外旋拘縮」の力学的ジレンマ
・フリーモーメント(FM)の増大による足部への下行生運動連鎖及び代償連鎖
・評価後のアプローチ
・まとめ
・股関節前面の「詰まり」の正体とアライメント評価
「詰まり」を整理する上で、まず構造的なFAI(大腿骨寛骨臼インピンジメント)の視点が必要です。
- Pincer type: 臼蓋側の過被覆(骨盤前傾など)による衝突。
- Cam type: 大腿骨頸部の隆起による衝突。
しかし、X線検査等の画像上で明らかな異常がなくても「詰まり」は発生します。
これが機能的インピンジメントです。
その主犯は、大腿骨頭の「前方滑り」です。

股関節後方の組織(関節包後部、深層外旋筋群)に硬さ(stiffness)が生じると、
股関節屈曲時に本来起こるべき骨頭の後方スライドが阻害され、骨頭が前方に押し出されます。
その結果、関節唇等が挟み込まれ、「詰まり感」として症状がでます。
「詰まり」を評価する際、骨盤のアライメント確認は必須です。
骨盤前傾例では、詰まりを訴えることは比較的少ないケースが多いです。
しかし、股関節の伸展制限がある場合や代償的に背筋使って腰椎を過前弯させ、骨盤を前傾位にしている場合、
力の方向により、股関節前方の関節包への応力が増加し、
股関節を屈曲させた場合に「詰まり」を訴えることもあります。
骨盤後傾例は、OAの中期〜末期に見られることが多いパターンです。
一見、前方スペースには余裕があるように見えますが、骨盤後傾に伴う大腿骨の相対的な前方変位が、結果として前面組織のインピンジメントを引き起こします。

骨盤アライメント評価の際は、
関節を屈曲させた際に患者様の「股関節の前が詰まる」「臀部が伸びない」などの
主観を確認することはもちろん、施術者側は股関節を他動で屈曲させた際の、
骨盤の前傾・後傾の可動域も評価する必要があります。
では、なぜOA症例の多くは股関節外旋位になりやすいのでしょうか。
・股関節OAにおける「外旋拘縮」の力学的ジレンマ
股関節OAが進むと、関節軟骨の摩耗や関節包の肥厚により、適合性が最も安定し、痛みが少ない位置(多くは屈曲・外転・外旋位)に肢位が固定されやすくなります。これが長期化することで、内閉鎖筋や双子筋といった深層外旋筋群の短縮を招き、強固な外旋拘縮へと移行します。
ここで、股関節OAの歩行について考えていきます。
歩行分析において、立脚中期から後半相(Mid Stance to Terminal Stance)にかけては、股関節の伸展とともに、骨盤が前方に送り出される過程で「股関節の相対的な内旋」が必要となります。

しかし、外旋拘縮があるOA症例では、この「内旋」が困難になることが大半です。
ここで、身体は歩行動作における下行性運動連鎖をとります。

・下行性運動連鎖:身体の上側で起きた動きや機能の変化が、下方向へ伝わり、下肢や足部の動きに影響を与えること。
・フリーモーメント(FM)の増大による足部への下行生運動連鎖及び代償連鎖
ここで、本稿の核心である「フリーモーメント(FM)」について解説します。
FMとは、足部(足底)にかかる「摩擦力」のことです。
簡単に言うと、歩行では足が地面に接した状態で身体を前へ進めるため、足底には前後方向だけでなく左右に捻じる力などの摩擦が生じます。その摩擦力こそがフリーモーメント(FM)です。
歩行時に地面を蹴り出す際、股関節や膝関節が適切に回旋を制御できていれば、歩行動作はスムーズになりFMは最小限に抑えられます。対して、上行性運動連鎖のようにFMが増大することで下腿の捻じれや回旋ストレスを生むことも大いに考えられます。
では、股関節OAにより内旋可動域を失った症例が、歩行の立脚後半で前方へ進もうとするとどうなるでしょうか。
順序立てて説明していきます。
- 股関節で内旋できないため、下肢全体を外旋位に保持したまま、骨盤を強引に前方へ回旋させます。
- このとき、足部は地面に固定されているため、股関節で吸収できない回旋エネルギーがすべて足底へと集中します。
- 結果として、足底にかかるFMが劇的に増大します。
股関節OAの影響により股関節内旋制限がかかり外旋方向に無理やり蹴り出す動作は、まさに足底へのFMの増大そのものです。
そして、これら股関節の要因の動作が下行性運動連鎖によって足部に及ぼす影響はさまざまです。
例えば、過剰なFM(回旋ストレス)により足部アーチを壊す形となり中足部や足根管付近に剪断力を加えます。

また、外旋位での蹴り出しにより、第2〜4趾側での過剰な荷重を招き、胼胝(タコ)の形成や外反母趾の悪化を誘発することも考えられます。
足部が回旋ストレスに耐えきれず不安定になると、その不安定性を補うために股関節周囲筋(特にTFLや外旋筋群)がさらに緊張し、再び「股関節の詰まり」を悪化させるという下行性と上行性の両方向からの負のループに陥る可能性も大いに考えられます。

・評価後のアプローチ
「詰まり」を解消し、FMを軽減させるためには、骨頭の求心位の獲得が必要です。
①後方関節包・深層外旋筋のリリース: 荷重位(CKC)で骨盤を後方に引くような動作を行い、骨頭を臼蓋の後方へガイドします。
②内転筋群の機能改善: 荷重時に床反力をしっかりと内側で受け止められるよう、内転筋群による支持性を高めます。これにより、外旋方向への逃げ(FMの増大)を抑制します。
では、足部に対してはどうアプローチするのが望ましいでしょうか。
私は患者さんに対して、単に「足を真っ直ぐ出す」ように指導しても効果は薄いと考えます。
リハビリにより、足部の内在筋等に刺激を入れ、足底荷重の再学習を行い足底全体で地面を捉え、特定の部位で「捻る(FMを発生させる)」のではなく、力を身体重心へと垂直に伝える感覚を養います。
ここで、内在筋のリハビリをお伝えします。
1.片足を前に出し踵を地面につけた状態で立ちます

2.徐々に体重を前面にかけていき、足部の内側縦アーチ・外側縦アーチ・横アーチがつぶれないように、踵・母指球・小指球の三点で30秒キープします。

内在筋自体が大きな筋肉ではないのでトレーニング感覚を感じづらいこともあると思いますが、アーチを保つ意識を持つことで内在筋が働きやすくなります。
そして、股関節OAの歩行動作においては特に股関節から足部までを一つのシステムとして捉えることが何より重要だと思います。
・まとめ
「股関節の詰まり」は、局所の痛みである以上に、歩行という運動における「力学的エラーのサイン」です。
股関節OA症例における外旋拘縮は、歩行時のFMを増大させ、その代償を遠位の足部へと押し付けます。
私たちが治療すべきは、単なる可動域制限ではありません。股関節のクリアランスを確保し、床反力とフリーモーメント(FM)を適切に制御できる「動ける関節」を再構築することです。股関節の詰まりというミクロな視点と、FMというマクロな力学視点を統合することで、初めてOA臨床の真実が見えてくるのです。
【アスリート鍼灸整骨院 瀬名川院】
柔道整復師
池谷 隼一












