歩行分析が動いている人を見る評価(動的評価)なら、姿勢分析は静止している人を診る評価(静的評価)と言えます。大きな違いは、患者さんを「見る」だけの評価ではなく、実際に触れて各部位を確認できるのが姿勢分析の特徴とも言えます。
骨盤は左右でどうなっているのか?前傾してる?後傾してる?骨盤高位側は?肩甲骨の高さは?挙上?それとも前傾?膝の膝蓋骨の向きは?大腿骨に対して下腿は?
このように臨床で必ず出くわす問題点をあぶり出すのが姿勢分析です。
はじめての姿勢分析
姿勢評価3つのポイント
ポイント1 骨盤
まずは、骨盤を診るときのポイントです。
「では立って姿勢を見せてください」と言ったときに、大抵の方はいつもよりきれいに立とうとします。胸を張り、あごを引き、肩も後ろに引くかもしれません。いつもの姿勢を診たいのに診られない場合もあります。ですが、その中で騙すことができないのが「回旋」です。
骨盤の回旋は、一般の方は「自分が回旋している」という感覚はありません。そのため、キレイに立つ時に、わざわざ回旋を戻して立たないのです。では、その骨盤の回旋を見てみましょう。
ここで用いる骨の指標は、上前腸骨棘(以下ASIS)です。
ASISは、骨盤の全面に位置し、腸骨稜から前方に降りていくと、指先大の大きさで骨が突出しているのが触れる場所です。このASISはオペなどの既往がない限り、ほぼ左右しっかり触れられるため、多くの先生方が指標として使います。
ASISを後ろから骨盤を包むように触れてみましょう。触れるときのコツは、中指で触れるのがいいと思います。中指は人差し指よりも長いので、手をまわしやすいという利点と、多くの臨床家は人差し指を自由にしており、施術の際も中指や環指で触診するケースが多いです。
一流の臨床家になるためには、何気ない動作や手つき、そして雰囲気も重要な要素ではないでしょうか。
そして、母指の方も考えましょう。
母指はASISと対極に位置する上後腸骨棘(以下 PSIS)を触ります。このPSISはASISよりも骨の突出が少なく、始めは触りにくく感じるかもしれませんが、そこはあきらめずに必ず触り続けましょう。
このASISとPSISは、子供などまだ小さい体の場合は、一度に母指と中指で触ることができますが、大きくなってくると、相当な手の大きさでないと一度に触れません。
なので、まずはASIS、次にPSISといった具合に交互に触れるようにしてください。

さて、骨の指標を触れるのは解りました。問題はいったい何の情報を得たいのか?です。
そうです、それが一番大事です。
静的アライメント評価の姿勢評価は、実際に触れることができるので、何を知りたくて触れるのかが問題になります。
そしてそれが、冒頭でもお話しした「骨盤の回旋」です。
正中線が体の中を貫通し、ちょうど体の中心で止まったとしましょう。この軸を基準として左右どちらのASISが前に出ているのかを触れて感じます。PSISも同様ですね。もし右のASISが前に出ていれば、正中線を軸として左回旋していることになります。この回旋は右が前に出ているから右回旋ではなく左にぐるっと回っているので左回旋です。ここは注意です。

それでは、
たとえば左回旋が骨盤の静的アライメント評価で分かったとします。そうなると、右の骨盤は前方にでていきます。ただ回旋しているのではなくて、やや、上半身は後ろに重心を残しながら、骨盤が前に出ている形をイメージしてください。このような傾向が非常に多く見られます。

この姿勢がSway-back姿勢と呼ばれ、様々な痛みを引き起こす要因でもあります。骨盤が回旋し、前方に出ていく。言い替えると、骨盤が左回旋し、右の骨盤が前方に偏移する。こうなると、実は腰椎分離症などで用いるテスト法のケンプテストというテストの形に近くなります。
ケンプテストは腰椎に回旋と伸展を行わせ、痛みの再現性をみるテストですが、その状態が毎日続いていると考えてください。そうです、それが片側性の腰痛につながってくるのです。骨盤の回旋を診られるという事は、片側性の腰痛患者さんの原因を突き止めることができるという事なんです!
骨盤の回旋をASISとPSISで見極めることで片側性腰痛などの原因を突き止めることになる。
ポイント2 胸郭
2つ目のポイントは胸郭です。
胸郭は、胸骨と12対の肋骨、そして12個の胸椎からなります。歩行評価でもお話ししましたが、胸郭は上位と下位に分けて話されることがあります。
よく言われる機能としては、吸気の際に上位胸郭はポンプのように前面が上がり、膨らみます。これをPump-Handle
motionと言い、これに対して下位胸郭は、左右にバケツの取っ手のように広がり、膨らみます。これをBucket-Handle motionと言います。
これらの肋骨の動きの違いを知っているだけでも、呼吸を見るときに正常な動きができているかいないかの判断ができ、非常に臨床で役立ちます。この役立て方は、また別でお話しします。
そして、上位胸郭、下位胸郭は歩行時に回旋が逆になると言われています。これに関しては、歩行評価で話してありますので、そちらを参考にするとより理解が深まると思います。


では、まず非常に触りやすい下位胸郭を触りましょう。
肋骨は肋骨頭関節と肋横突関節の2つの関節が胸椎と関節をなしています。そこから大きく弧を描き前面に向かう途中で肋骨角と言われるカーブによって方向を変えます。この肋骨角がまずわかりやすい基準です。
肋骨角より内側(脊柱側)は、脊柱起立筋の膨隆が大きいのですが、骨を触れたいので、その膨隆をさけて肋骨角の外側に母指をあてます。中指・環指は肋軟骨がある前面を把持します。
この時、胸郭は丸形ではなく、前額面の前にラグビーボールを横向きに置いたような形だというのが分かると思います。なので、非常に下位胸郭は触りやすいと思います。
この把持した下位胸郭を骨盤の時と同じようにどちらが前方にあるのか見極めます。
右が前方にあれば、下位胸郭は左回旋となります。
この時に、先ほどの骨盤と話をつなげてみましょう。
ポイント①の骨盤では、左回旋して、上半身の重心が残るSway-back姿勢になると、片側性腰痛の原因になるとお話ししました。これが、下位胸郭も前方に出て、左回旋していたとします。

骨盤左回旋、下位胸郭左回旋です。
この回旋が2つの部位で合わさった時が、より片側性腰痛が著名に出やすい姿勢となります。

もし、骨盤は左回旋のままで、下位胸郭のみ回旋が反対だったとしたら?
これは、回旋を打ち消しあっている状態で、体の状態としては良い状態と言えます。良い状態というのは具体的には痛みが出にくい状態、機能的に優れている状態、あるいは、筋力もある状態と言えるかもしれません。
もちろん、症状のある方もいらっしゃいますが、この「打ち消しあっているのか、いないのか、」を見極めていく上で、胸郭を評価するというのは非常に大切です。
下位胸郭の回旋を診て、骨盤の回旋と組み合わせることで片側性腰痛などの痛みの原因が分かってくる。
ポイント3 大腿骨
では3つ目のポイントです。
3つ目のポイントは大腿骨です。「えっ?大腿骨?」となるかもしれません。ここでは、よくある肩甲骨ではなく、大腿骨がポイントです。骨盤から上の下位胸郭の評価をして、骨盤から下の大腿骨を評価しないのは良くないですね。
ではいきましょう。
大腿骨には、指標として分かりやすい「大転子」があります。大転子には、多くの筋が付着し、代表的なのは中殿筋の停止部です。この大腿骨の大転子を、どのように姿勢評価で診ていくのかをお話していきます。
例えば、ポイント1.2でお話したように、骨盤が左回旋していたとしましょう。
その時に、大腿骨も骨盤の回旋と一緒に「付いていっているのか」あるいは「付いていっていないのか」を見分けないといけません。
基本的には、骨盤に大腿骨がついていき、同じように右側が前に出ていきます。
この時、何が起こりやすくなるのか?
答えから言うと「大腿筋膜張筋が硬くなりやすい」です。
なぜか?
まず、大腿筋膜張筋は股関節屈曲・外転・内旋筋です。その屈曲・外転・内旋位で収縮すれば、収縮して硬くなるイメージは想像できるかと思います。
それは例えば、力こぶのように、肘関節屈曲で上腕二頭筋が盛り上がりそれをずっとやっていたら、「カッチカチやぞ!」になる感じです。
しかし、実際には私たちは重力の元、色々な姿勢を取りながら生活しています。
では、ポイント1.2で話しているSway-back姿勢と結び付けてみましょう。
この姿勢は上半身よりも骨盤が前方に出ていく姿勢でした。そうなると、股関節の前面はこれ以上出てこないように、頑張ります。ずっと崖の上で鉄棒をにぎり、足は地面につき後ろから骨盤を押されている感じでしょうか。
すごく頑張りますよね、落ちないように。。。

とにかく、大腿筋膜張筋は骨盤が前に出てきたせいで、これ以上ないほどの筋収縮で元の位置に戻ろうとします。
これが、アイソメトリック収縮や、またはエキセントリック収縮の状態で続き、どんどん筋肉は硬くなる原因になります。
この形が、骨盤の回旋に「大腿骨が付いていった」パターンです。
では、
反対に「大腿骨が付いていかなかった」パターンを考えていきましょう。
続きは「動作分析と治療マネジメントベーシックブック」をご覧ください。