「変形性膝関節症の降段動作では何が起こっているのか」
「変形性膝関節症の降段動作では何が起こっているのか」
「皆さんの周りに階段の降りで膝が痛い患者さんはいますか?」
変形性膝関節症(以下膝OA)の方にとって、階段というのは日常の中で困る方が多いと思います。昇りももちろんですが、案外ネックなのが降りではないでしょうか。
階段降段を力学的に見ると、身体重心を下肢で制御しながら前下方へ移動させる動作であり、筋の収縮様式の違いにより歩行や階段昇段よりも難易度が高い動作であるとされています。膝周囲の筋力低下も見られる膝OA 患者さんにとっては困難な動作であると思います。実際に、階段昇段は良いが降段動作の痛みのコントロールが難しい患者さんもいらっしゃいます。
日常の中で階段やちょっとした段差は多く存在するため、少しでも痛みを改善して生活が送れる方が増えるように考えていきましょう。
そもそも変形性膝関節症(膝OA)は老化による一次性のものと、外傷や炎症の後遺症等による二次性のものがあると言われています。しかし、一次性のものも多くは力学的ストレスが要因により起こる二次性のものであるということがわかってきました。すなわち下腿内捻、内反膝、股関節や足関節の機能不全や膝関節の軟部組織的因子(半月板損傷や靭帯損傷による不安定)があると変形性膝関節症を引き起こす可能性は高まるということになります。
となると、やはり力学的ストレスはさまざまな角度から考えていく必要があります。
これまで、ここでは歩行や階段昇降時の力学的ストレスについていくつか記事を書いています。それについては以下参照。
https://arch-seminar.com/gaitanalysis/歩行時の骨盤・股関節/【歩行・動作分析の考え方のポイント!-『関節モ/
https://arch-seminar.com/gaitanalysis/歩行時の足部/歩行動作における足関節背屈制限が与える影響に/
https://arch-seminar.com/gaitanalysis/歩行時の膝関節/【膝関節ラテラルスラストを上半身質量中心から/
それでは、階段の降段を見ていきましょう
<階段降段の位相>
<階段降段の関節運動と筋活動>
階段を降りる動作では、平地での歩行動作と比べると股関節の伸展動作はほぼ行われず、ほとんど屈曲状態で動作が行われる特徴があり、膝関節も大きい屈曲動作が行われます。
また足関節では底屈位で踏板に接地する特徴があります。そして、荷重に伴い足関節は背屈位となり、遊脚期で再び底屈位に戻ります。
降段動作での筋活動については、大臀筋、中臀筋、大腿四頭筋は上段の下肢が身体を支える時から、身体重心が上段足部の支持基底面上を前方へ超えるときまでに筋活動が高くなります。
下腿三頭筋は、重心が上段足部を超える時から下段の足が体重を支える時までの筋活動が高くなります。
これらの関節運動や筋活動から、降段では膝関節と足関節の動きが大きく、平地歩行よりも膝関節への負担が大きいといえます。
階段昇降矢状面上の関節モーメントについてはこちら
https://arch-seminar.com/gaitanalysis/歩行時の膝関節/【動作分析入門編】階段昇降動作とモーメントの/
前述の記事にもあるように、矢状面での関節モーメントを考えると、上半身質量中心が膝関節にできるだけ近くを通ることで外部膝関節屈曲モーメントは小さくなるため、体幹の前傾が望まれます。
また多くある問題は、上半身質量中心の位置を合わせようと思うと、段差が高くなればなるほど後ろ足になる足関節の背屈可動域が必要になるということです。
足関節の背屈に制限がなく前足部での荷重のコントロールが可能であれば良いですが、高齢者、膝OA患者さんの特徴としては、膝関節の周囲筋の衰えから体幹を前傾し股関節の屈曲角度を増やし、より股関節の運動に頼っているという特徴もあります。
足部でのコントロールもできず、体幹の前傾が行き過ぎてしまうと降段動作は重心が前方と下方へと移動するので、転倒のリスクが高まります。
また降段動作では下方への垂直移動する分、両足支持期の時間が短くなり、より素早く片足バランスを取らないとなりません。
●左足:足関節の背屈制限なし、膝OA 痛み+、右足を着くまでバランス可
●右足:足関節の背屈制限あり、膝OA 痛み++、左足に墜落していくように着地
このことを考えると、
股関節屈曲位で上半身質量中心が膝関節の近くを通る位置で降段できるように、足関節距腿関節の背屈軸があっており、背屈制限がないこと。片足立位でのバランス能力や大腿四頭筋の遠心性収縮の筋出力があることは、力学的(関節モーメント)視点から考えた、安全な降段動作にはとても重要な要素となります。
さらに階段降段時の前額面上のストレスも考えていきましょう。
先行研究で降段時の外部膝関節内転モーメントについて研究したものがあります。
特に降段の単脚支持期において外部膝関節内転モーメント(KAM)の変化は著明で、膝OA群の外部膝関節内転モーメント平均値が対照群(膝健常者の利き足)と比較して大きいことが明らかとなった。降段動作では、後行肢からの荷重の受け継ぎ完了後の単脚支持期に、単脚で身体を支持しながら身体の下降を制御することが要求される。この時期に膝関節は屈曲運動を行い、内部膝関節伸展モーメントは最も大きくなる。さらに本研究の結果から、膝OA 群では外部膝関節内転モーメントが大きくなるため、膝関節内側コンパートメントに対する生体力学的負荷がより大きくなることが考えられる。
引用 理学療法科学 30(3):353–357,2015 階段降段と平地歩行における 外部膝関節内転モーメントの特徴 ─ 変形性膝関節症患者と健常高齢者の比較─
膝OA群の歩行時の外部膝関節内転モーメントも大きくなっているが、階段降段時の外部膝関節内転モーメントは健常群と比べるとさらに大きいことが分かる。
この事実は、降段する際に下降を制御しながら膝関節が屈曲してくること、下腿外方傾斜による影響、上半身質量中心による影響等さまざまな要因が関係していると推測されます。
1つとしてこの前額面上のモーメントは、上半身質量中心を支持脚側に近づけることで外部股関節内転モーメントを小さくし膝内側へのストレスを小さくすることができます。
膝O A 患者さんで見られる、歩行時に上体を揺らす歩行形態、これは矢状面上の上半身質量中心を立脚側の膝関節に近づけることで、関節モーメントを小さくしていると考えられます。
階段も同じで、上半身質量中心を支持脚側に寄せることで外部股関節内転モーメントを小さくし膝関節への力学的ストレスを小さくすることは可能となります。しかし、降段しながらも左右への上半身質量中心を移動させることはなかなか大変なことかもしれませんが…
上半身の体幹を動かしても下半身の安定が保たれるよう、中臀筋の求心性収縮、内転筋群の遠心性収縮の筋活動も必要となるでしょう。
今回は、階段降段時に矢状面、前額面での力学的ストレスについて見てきました。
力学的ストレスを減らすためには、関節モーメントという視点を踏まえ、実際にそれを軽減するために必要な、筋機能・筋活動も同時に大事にしていかなくてはならないということがよくわかります。
痛みの原因となる関節へのストレスを見つけ出し、実際に膝の痛みなく生活するためには何が必要なのか提案できるようにしたいですね。
スポーツラボ鍼整骨院
岩瀨 優子【鍼灸師・アスレティックトレーナー】