【動作分析入門編】階段昇降動作とモーメントの考察
【階段昇降動作と関節モーメントの考察】
数多の日常生活動作がある中で最後まで痛みが残ったり、痛みが順調に引かなかったりとなかなかクリアできないのがこの「階段昇降」ではないでしょうか。
今回は階段昇降時の動作分析をする際にみるべきポイントの1つである、関節モーメントについてお話していきます。
まず初めに階段昇降の動作について簡単に整理します。
階段昇降は歩行と同じく 期分けが存在し、以下のようになります。
基本的に歩行と同じく片脚支持期と両脚支持期に分かれますが、階段昇降では鉛直方向に体重を移動させる挙上相と重力に逆らい減速しながら下段する下降相が存在し、それぞれ作動する筋や筋出力にも差が生じます。
歩行と比べ、特に筋活動の増加が見られるのは
挙上相の前側脚、下降相の後側脚の大腿四頭筋
挙上相の後側脚、下降相の前側脚のヒラメ筋
であり、階段昇降時の症状を考える際、大切なヒントになります。
続いて階段昇降時の関節モーメントについて考えて行きます。
まず関節モーメントには外部からの関節モーメントと内部からの関節モーメントの2つが存在し、外部関節モーメントは重力などが関節運動に影響を与えるモーメントであり、反対に内部関節モーメントはそれに拮抗しようとする筋力によって発生するモーメントとなります。
そして、各関節モーメントは関節と重心の距離によって変動します。
まず昇段時の場合を以下の写真で考えてみましょう。
この2パターンの昇段動作での各関節モーメントを見ていくと、まず膝関節の関節モーメントは、右の方が重心(上半身質量中心)が後方にあるため膝関節にかかる外部膝関節屈曲モーメントは増加し、その結果大腿四頭筋による内部膝関節伸展モーメントも増大します。しかし股関節の関節モーメントで考えると関節と重心距離が右に比べ近くなるため、外部、内部関節モーメント共に小さくなります。
※厳密には関節モーメントは、身体質量中心(重心)に向かう床反力の大きさと各関節軸との距離によって決定されます。ただし、膝関節や股関節においては、その誤差は生じるものの、身体質量中心ではなく上半身質量中心を観察し、各関節との位置関係・距離を判定することで、およその関節モーメントは推測可能になるとされています。そこで本セミナーでは、上半身重心を観察点とすることをお勧めしております。
【参考】福井 勉:結果の出せる整 形外科理学療法― 運動連鎖から全身をみる.メジカ ルビュー社,東京,2009
このときに大切なのは、症状のある関節にかかるモーメントの状態です。
例えば膝関節に症状がある場合、先ほどの左の写真の状態だと膝関節にかかるモーメントが大きいため膝関節にとっていい状態とは言えません。
反対に右の写真では股関節にかかる関節モーメントは増加しますが膝関節にかかる関節モーメントは減少します。この場合股関節に症状が無ければ、膝関節の負担を股関節で代償できており、膝関節にとっては比較的いい状態といえるでしょう。
次に下段時の動作で考えてみましょう。
左右の写真を見比べると、左の写真は重心が膝関節とほぼ同位置にあるのに対し、右の写真では重心位置が膝関節から遠ざかり、反対に足関節との距離は近づいているのがわかります。
この場合、足関節にかかる外部足関節背屈モーメントが減少するため内部足関節底屈モーメントであるヒラメ筋などの負担は減少し、代わりに外部膝関節屈曲モーメントが増加するため内部膝関節伸展モーメントである大腿四頭筋などの負担が増加することが予測できます。
このように考えるとモーメント、身体重心を観察することで患者様の身体にどのような力がかかり、どのように症状に作用しているのかがある程度予測できるかと思います。
関節にかかるモーメントが大きくなるほど、関節にかかる負担も増えてしまいます。
今回は階段昇降動作でモーメントをみていきましたが、異なる動作の場合でも考え方は同じです。
痛みや症状、身体の特徴などには個人差がありますが、重力がかかっていることやその影響でモーメントが発生することはどのような方でも変わりません。
同じような生活、身体の使い方をしているのになぜ症状が出てしまうのか。
その原因は小さな重心のズレや動きの誤差かもしれませんが、それを見つけることが大きな糸口に繋がっていくかもしれません。
ご精読ありがとうございました。
柔道整復師 安藤 麟