【膝関節ラテラルスラストを上半身質量中心から考える】
【膝関節ラテラルスラストを上半身質量中心から考える】
今回は変形性膝関節症(以下膝OA)患者の上半身質量中心を観察し、
骨盤の前方回旋とラテラルスラストに結びつけてお話をさせて頂きます。
膝OAに多い膝内側部痛の要因に関わってくるのが上半身質量中心です。
私たちは重力を受けながら生活をしています。
そして、すべての動きに対して床反力や上半身質量中心(以下U-COG)の位置※が関係しています。
その力学的負荷が歩行周期の中でどのような力を与えているのかを理解することが重要です。
※床反力は、身体質量中心(重心)に作用する重力に対する(床からの)反力ですので、基本的には身体重心方向に向かうということになります。
ただし、歩行時に身体重心を観察することは、その動く量が大きくないため、やや難しいかと思います。
そこで、本セミナーでは厳密には誤差は大きくなりますが、上半身重心を観察点とすることをお勧めしております。
上半身質量中心は、第7胸椎~第9胸椎のあたりにあり、剣状突起のあたりと考えると分かりやすいと思います。
膝の痛みは歩行周期のどこで出るのでしょうか?
IC(踵接地)→LR(荷重応答期)→MSt(立脚中期)→Tst(立脚終期)のどこなのか。
今回はICとMStに着目してお話をさせて頂きます。
ICでの痛みは、踏み出し脚側に起こりやすい傾向にあります。
踏み出し脚は骨盤の前方回旋側に多く、水平面でより遠くに足をつきやすい特徴があります。
水平面で遠くに足をつきやすいという事は、身体重心から膝関節までの距離が遠くなり膝伸展機構にかかるモーメント(外部膝関節屈曲モーメント)が大きくなる。
それに加え、U-COGが変位している側は上半身の質量がドンっと乗りやすくなり膝関節に加わる負荷が大きくなります。
MStでの痛みは、骨盤の側方swayによって内転筋の機能不全が起こり、前額面保持が困難になります。
そうなると外部膝関節内反モーメントが大きくなり膝関節内側に圧縮ストレスが強くかかることが予想されます。
まずは、各歩行周期の中で、上半身質量中心はどこにあり、その時何が問題になっているかを見つけ出すことがヒントになると思います。
では、MStでの膝の位置と上半身質量中心の位置関係を見てみましょう。
この時、いくつかのパターンがあると思います。
- U-COGが患側に変位している(支持脚にU-COGが変位)場合。
- U-COGが対側に変位している(支持脚の対側にU-COGが変位)場合。
①U-COGが患側に変位している場合は、患側が踏み出し脚になりやすく、踏み出し側の骨盤は前方回旋傾向にあります。
踏み出し側の床反力を矢状面上で見てみると、膝の後方を通るのが下の図から分かると思います。
『足底板の現在,Sports medicine,2008,No102 より改変・引用』
という事は、重心が前方に乗ってこない為、ICからLRでの内部膝関節伸展モーメント(外部膝関節屈曲モーメント)が強くなり、膝関節屈曲位でいる時間が長くなる傾向にあります。
是非こちらもご覧ください。↓↓
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この動きがどう矢状面の動きに関わっているのでしょうか。
ヒトは左右対称に歩いてないという事が原則であったかと思います。
骨盤前方回旋側のIC時に膝OAに多い骨盤後傾位で殿筋機能低下があれば、床反力の衝撃吸収機能が低下し、
墜落するように、接地することが多くなります。
内部膝関節伸展モーメントが強くなり、膝前面に牽引ストレスが加わっている状態で、
床反力の衝撃も同時に加わります。
これが繰り返されるとすると、痛みが出そうですよね。
➁U-COGが支持脚の対側に変位している場合は、MStでの痛みが出ることが多くあります。
U-COGが支持脚の対側にあるという事は、外部膝関節内反モーメントが強くなるという事です。
『足底板の現在,Sports medicine,2008,No102 より引用』
こうなると膝OA患者は大腿筋膜張筋などの大腿外側の(受動)組織を伸張させて、
受動張力により、体幹を保持させようとします。
この時、股関節が内転位になると、外転筋などが機能できず、
歩行での体幹・骨盤を保持する事が困難になります。
股関節が内転位になることによって、骨盤の側方swayが起こり体幹が対側に流れやすくなります。
そして、膝関節が内反位になり、その結果床反力が膝の内側を通りラテラルスラストをつくり出していくのです。
これらを踏まえると、それぞれどのようなアプローチを行えば痛みを軽減させることができるでしょうか。
①の場合、矢状面の動きが痛みの原因になっていたと思います。
重心が後方にあるために、膝が屈曲位となりやすく、痛みのフェーズが長くなる。
という事は、重心を後方から前方に持っていくことで、膝にかかる内部膝関節伸展モーメントを減らす事ができ、かつ、骨盤を前傾方向に持っていく事で、結果として床反力を殿筋機能で吸収することができるということです。
重心を前方に持っていく、そして骨盤を前傾方向にもっていくエクササイズを一つご紹介します。
ヒップリフト
・椅子に浅く座り膝よりも足部を後方に置きます。
・骨盤を前傾させ、後傾にならないよう気を付けながら股関節を屈曲させていきます。
・股関節の屈曲角度、前傾を保ったまま膝を支点とし地面を踏むイメージで臀部を持ち上げます。
・この時、重心は前方へ持っていき、殿筋下部とハムストリングスのエキセントリック収縮を使い状態を維持します。
重心が前方にある位置で、衝撃吸収に必要な殿筋下部と、骨盤前傾位をつくり出している。
次は②に対してのアプローチをお伝えさせて頂きます。
②の場合、前額面での痛みが原因となってきます。
外部膝関節内反モーメント、膝内側にかかる圧縮ストレスを減らす事が、骨盤側方swayと膝のラテラルスラストを減らす事に繋がります。
常に股関節内転位でいると、中殿筋などが伸長位になったまま滑走不全を起こします。
その状態で、無理に股関節外転外旋位にもっていくと、骨頭がうまく内下方に落ちることができないまま(求心位とならない)、外転筋の出力も出ず、つまり感が発生します。
内転筋の短縮を取り除き、骨頭の動きを出してく事がまずは大切だと思います。
内転筋のアプローチについてはこちらの記事をご覧ください。
【骨盤挙上側の内転筋について】 歩行と姿勢の分析を活用した治療家のための専門サイト【医療従事者運営】 (arch-seminar.com)
内転筋のエキセントリック収縮が出るという事は、それに伴い外転筋の出力を上げることができ、その結果、体幹が立脚側に乗り外部膝内反モーメントを減らす事ができます。
また、前額面での機能改善がみられることで、歩行時の側方swayも少なくなっていくという事です。
今回は膝OA患者の痛みの原因を上半身質量中心から考えてお話させて頂きました。
ぜひ先生方が現在見られている膝OA患者の上半身質量中心を観察してみてください。
柔道整復師:伊藤 百花