【膝の痛みと足関節背屈制限について】
【膝の痛みと足関節背屈制限について】
治療をしている中で、しゃがみこみや階段の下りや上りで膝の痛みを訴える方は多いのではないでしょうか。
実は、膝の痛みの原因は足部と深く関係があることが多いです。
今回は、実際の症例を元に足部と下腿との関係性についてお伝えさせていただきます。
まず、足関節(距腿関節)についてみていきましょう。
基本的な部分に触れると
足関節とは距腿関節で脛骨、腓骨、距骨によって構成されます。
距腿関節は、脛骨と腓骨によりほぞ穴のような関節窩を形成します。
参考文献:筋骨格系のキネシオロジー
背屈時、距骨が後方移動し脛腓間のほぞ穴にはまり、構造的に安定します。
逆に底屈時は、距腿関節の骨性の安定度が低くなり、内反ストレスが強く加わると外側の靭帯を損傷します。
なかでも前距腓靭帯の損傷頻度が高いです。
参考文献:筋骨格系のキネシオロジー
足関節捻挫についてはこちらをご覧ください。
【初回足関節捻挫とアスリハについて】歩行と姿勢の分析を活用した治療家のための専門サイト【医療従事者運営】 (arch-seminar.com)
足関節捻挫は、日常生活や運動中に最も多い外傷なので、臨床で関わることが多い事と思います。
そんな足関節捻挫後に足関節のつまり感や足関節背屈制限を経験したことは多いのではないでしょうか。
それはなぜ起きるのでしょうか。
①固定や運動制限による下腿三頭筋の柔軟性低下
②遠位脛腓関節可動性低下(背屈時、腓骨は挙上、回旋をします。)
③捻挫の外力や前距腓靱帯の損傷で距骨が前外方に偏位しやすくなり、距腿関節の軸があわず、転がりと滑りがスムーズに行われない
このようなことが原因です。
では、足関節の転がりと滑りが正しく行われないことにより足関節背屈制限が出る原因を探っていきます。
参考文献:筋骨格系のキネシオロジー
ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、凹凸の法則について説明します。
関節が動く場合に、その動く関節面が凹面であるか凸面であるかにより関節の動きに一定の法則があります。
凸面が動く場合:転がりと滑りが対側におきる
凹面が動く場合:転がりと滑りが同側におきる
転がりと滑りについてはこちらをご覧ください。
【関節包内運動『凹凸の法則』についての考察】| 歩行と姿勢の分析を活用した治療家のための専門サイト【医療従事者運営】 (arch-seminar.com)
これをイメージして、O K C(非荷重位)の足関節で考えます。
非荷重位では、距骨は大きく動かず踵骨の動きに伴い動きます。
下腿遠位 【距腿関節関節面】(凹側)【距骨】(凸側)では、凹側の下腿が固定され、凸側の距骨が動きます。
凸側が動く場合は、転がりと滑りは対側におこるので、足関節背屈時、距骨が前方に転がり後方に滑ります。
では、CKC(荷重位)ではどうなるでしょう。
距骨の回旋(外旋・内旋)により、脛骨の回旋が伴います。
荷重位では、これは絶対になります。
【荷重位のST関節の動き】
回内:踵骨の回内、距骨の底屈・内旋 ― 下腿の内旋
回外:踵骨の回外、距骨の背屈・外旋 ― 下腿の外旋
ST関節の動きについてはこちらをご覧ください。
距骨下関節の回内は踵骨回内、距骨内旋・底屈l歩行と姿勢の分析を活用した治療家のための専門サイト【医療従事者運営】 (arch-seminar.com)
距骨下関節の回外は踵骨回外、距骨外旋・背屈l歩行と姿勢の分析を活用した治療家のための専門サイト【医療従事者運営】 (arch-seminar.com)
運動連鎖で考えると
・ST関節ー回外
・下腿ー外旋
・大腿ー外旋
・股関節ー外旋
・骨盤ー後傾
このようになります。
では、なぜ足関節捻挫後はスムーズな背屈ができないのでしょう。
内反捻挫により距骨が前外方に突出し、足関節背屈時、距腿関節の軸があわず距骨の後方への滑りを妨げます。
正常な歩行では、MSt時ST関節は回内し距骨は内旋、底屈して下腿は前傾します。
しかし、足関節捻挫を繰り返すことによりST関節は回外位になります。
(ST関節が回内位、つまり扁平足になってしまう場合もあります)
そして、距骨は外旋、背屈するので下腿は距骨の動きに伴い後傾します。
これにより足関節背屈制限が出てしまうのです。
次に、足関節の背屈制限と膝の痛みがどのような関係があるかみていきましょう。
患者さんの主訴は、階段の上りの際急に膝の内側半月板のやや内側あたりに痛みが出て踏ん張ることができませんでした。
患者さんのアライメントは大腿は内旋、下腿は外旋、そして相対的に下腿に対して大腿はより内旋していました。
大腿と下腿の軸をあわせるアプローチを行いましたが、階段の上りで踏ん張ることができない状態が続いていました。
よく話を聞いてみると、学生の頃に足関節捻挫を繰り返していて距骨は前外方に突出して、背屈制限がありました。
前足部内反、ST関節回外位、距骨の動きに伴い下腿は外旋位、下腿は外方傾斜していました。
足関節捻挫による足部のアライメント不良により足関節背屈制限が原因で下腿が前傾できなくなり膝に痛みが出ていました。
下腿が前傾できないことで、上半身を前に倒すことができず大腿四頭筋や腸脛靱帯などが優位に働き、臀筋の出力は低下します。
後方重心になると、上半身質量中心と膝関節との距離が遠くなるため遠心性(エキセントリック)収縮が強くなり、膝関節への負担が大きくなります。
(膝関節伸展機構障害)
関節モーメントで考えると、内部膝関節伸展モーメント、外部膝関節屈曲モーメントが働きます。
関節モーメントについてはこちらをご覧ください。
【歩行・動作分析の考え方のポイント! 『関節モーメントとは?』】歩行と姿勢の分析を活用した治療家のための専門サイト【医療従事者運営】 (arch-seminar.com)
これにより大腿四頭筋や大腿筋膜張筋、腸脛靱帯など外側の組織に張りが出やすくなります。
外側広筋の硬さがあることにより、その上を覆っている腸脛靭帯や大腿筋膜張筋の距離は長くなります。
患者さんの膝の内側に痛みが出てしまった原因は、
足関節背屈制限により下腿の前傾が妨げられ、大腿四頭筋が優位になり大腿外側の筋膜の引っぱりによって、膝関節が外旋位となりやすく
膝の内側に痛みが出ていたことです。
なので、足関節背屈制限を取るために後方の関節包をリリースし、距骨の転がりと滑りがスムーズに出るようにアプローチしました。
そして、階段の上りで股関節を屈曲させ、臀筋やハムストリングスのエキセントリック収縮ができるようなエクササイズいれました。
正しいスクワットのやり方はこちらをご覧ください。
正しいスクワットのやり方知っていますか? (arch-seminar.com)
ST関節が回内方向へ誘導できれば、下腿は内旋し前傾することができ距腿関節は背屈しやすくなりました。
その結果、膝の痛みはなくなり日常生活での階段の上りを行えるようになりました。
膝の痛みは足部の原因(上行性の運動連鎖)によるものと骨盤や体幹が原因(下行性の運動連鎖)によるものがあります。
膝の痛みに対して患部をアプローチするのではなく、何が原因で膝のどこに痛みが出ているかを明確にして治療計画をすることが大切です。
鍼灸師 澤木 藍