【女子サッカー選手のインサイドキックによる股関節痛】
【女子サッカー選手のインサイドキックによる股関節の痛みについて】
女子サッカーの競技人口は年々増え、競技レベルも高くなっており、
来年度には日本初の“女子プロサッカーリーグ(WEリーグ)”が開幕します。
女子サッカーがさらなる飛躍を遂げるためには、女子選手の動作特性を理解することは非常に大切であり、男女での骨格アライメントや筋力差などを形態的・機能的特性に基づき考えていかなければならないと思います。
今回は、女子サッカー・フットサル選手に多いインサイドキック動作による股関節の痛みを
女性の身体的特徴をもとに紐解いていきたいと思います。
サッカー選手に多い鼠径部周辺の痛みにグローインペイン(鼠径部痛症候群)があります。
①恥骨結合炎
②内転筋腱障害
③腸腰筋の機能障害
④鼠径管後壁欠損
⑤外腹斜筋腱膜の損傷
他にも、変形性股関節症や女性に多い恥骨骨折などそういった診断がつくものもあれば、
筋肉(内転筋や腹直筋の起始部)の炎症や損傷と診断され詳しくわからない場合もあります。
それらの原因をしっかりと考えて改善していかなければ、痛みが治ったとしても
またすぐに再発し復帰が遅れたり、選手生命に関わる可能性が高くなってしまいます。
まず、股関節の痛みについて女性の形態的特徴から考えてみます。
〇骨盤の構造〇
寛骨(腸骨、恥骨、坐骨)の3つの骨から形成されている。
骨盤は、全骨格のうち最も性差が著しいとされ、男性に比べると骨盤の上口、下口ともに女性の方が横径は大きい(股関節内転位となりやすい)。
〇前捻角〇
水平面において、大腿骨頭は大腿遠位部に対し前方へ捻じれている。
平均15°程度
前捻角が大きいと大腿骨頭前方の安定性が低下するため、代償的に股関節を内旋位にして安定性を出している。
さらに、寛骨臼の前捻や前額面での傾斜、大腿骨の前捻角は、いずれも女性の方が男性よりも3~5°程度大きい。
〇Qアングル〇
上前腸骨棘と膝蓋骨中央を結ぶ線と膝蓋骨中央と脛骨粗面を結ぶ線の成す角度のこと。
男性:平均10°程度
女性:平均15°程度
Qアングルの増大は解剖学的外反膝を形成し、
外反膝とは大腿骨の内転・内旋と下腿部の外旋(X脚のイメージ)のことをいう。
以上のことから、女性は男性よりも股関節の内旋が強く存在していることになります。
よく聞く「knee-in.toe-out」を引き起こしやすい姿勢となり、
※女性に多い前十字靭帯損傷(ACL)の受傷を引き起こす原因になります。
次に、
◎インサイドキック
キック時の運動連鎖としては、股関節伸展・外旋・外転、下腿部外旋の肢位をとり
股関節の屈曲・内転によってボールインパクトすることになります。
キック動作を大きく3つの局面(バックスイング期、コッキング期、アクセラレーション期)
に分けられます。
バックスイング期
※キック脚のつま先が離れてから股関節最大伸展位まで
股関節を伸展・外転・外旋(特に外転の可動域が大切)となります。
しかし、女性は形態的特徴として、骨盤の形状により股関節の内転モーメントが、
大腿骨の前捻によって股関節の内旋が強くみえます。
したがって、内転筋は短縮位になるためバックスイングで股関節の伸展も少なくなります。
内転筋の作用について 詳しくはこちらをチェックしてください。
内転筋が短縮すると股関節外転が困難になり、股関節の屈曲伸展運動にも関与するため矢状面での可動域の減少にも繋がります。
コッキング期
※キック脚の最大伸展位から膝関節最大屈曲位まで
股関節最大伸展・外転位になるため内転筋群・膝関節伸筋群(大腿四頭筋)等へのエキセントリック収縮が強くみられるため、それらの筋の柔軟性が必要となります。
アクセラレーション期
※キック脚の膝関節最大屈曲位からボールインパクトまで
ボールインパクトにかけて股関節の屈曲・内転動作が最も速く促され、
股関節内転筋群にエキセントリック収縮が強く加わりやすくなります。
また、女子サッカー選手のインサイドキックの特徴として、
下肢だけでの股関節内外転動作への加速に依存しているため股関節への負担が大きくなります。
キック脚側の骨盤の前方回旋を伴いながらインパクトすることで身体重心を前方へ乗せることで股関節へのストレスを軽減できます。
インサイドキックにおいて、下肢関節のみの運動連鎖ではなく上肢からの運動連鎖を上手に使うことでストレスなく、尚且つキック力も上がりパフォーマンスアップにも繋がります。
もちろん、前額面での股関節内・外転、矢状面での股関節屈曲・伸展、水平面での股関節の内・外旋それぞれの可動域の獲得は重要です。
また、男子選手に比べると女子選手は筋力的に劣るので、
キック脚の内転筋群(エキセントリック収縮)や膝関節伸筋群(大腿四頭筋)、股関節伸筋群(ハムストリングス・大殿筋)の単純な柔軟性・筋力の獲得が大切です。
痛みが出る動作を確認し、どこの関節が動いていないのか、どこの筋肉が機能していないかを判断してアプローチすることが再発させないことに繋がります。
インステップキックについて詳しくはこのページをチェックしてください。
石本 楓華(いしもとふうか)【 柔道整復師】
スポーツラボ鍼整骨院 滝ノ水