【姿勢分析・動作分析を始めたばかりの方へ】Swayback姿勢が身体にもたらす力学的な意味と姿勢の見分け方
臨床の場で患部の状態がどうなっているのかを考えることはとても重要な意味を持ちます。
どの組織での痛みなのか、炎症反応が起こっているのか、画像診断が必要なのか・・・
しかし、それだけでは良くならない患者さんがいることも事実です。
私がお世話になっている先生の言葉をお借りするならば、「木も見て、森も見る」
これを運動器の治療に当てはめると、
木=患部 森=全身となります。
「患部も見て、全身も見る」これはどんな症状であれ、当てはまる言葉だと思います。
臨床でこんな場面ありませんか?
治療後は良いけど、1日経つと痛みが戻ってしまう、運動すると痛みが出てしまう。
そんな方々は患者さんの全身の姿勢がどうなっているかを考えることが大事になってきます。
また、姿勢を正確に分析できることで、体の使い方を予測したり、可動域の制限などを予測できたりもします。
今回は姿勢の分析を始めたいと思っている方、始めたばかりの方へ
日本人に多いと言われているSwayback(スウェイバック)姿勢についてお話をさせていただきます。
後半の方ではSwayback姿勢の見分け方の一例についても解説をしていきますので、ご覧になってください。
まず初めにSwayback姿勢とは?
初めてお聞きになる方も、既にご存知の方もいるかと思います。
Swayback姿勢とは、Kendallによって提唱された不良姿勢のことです。
このほかにもFlatback(フラットバック)やLordosis(ロードシス),
Kyphosis Lordsis(カイホロードシス)などを定義づけしています。
Swayback姿勢以外の分類に関しては今回触れずにいきますが、
同じように考えてみると新たな発見や、治療のヒントになる考え方が生まれるかもしれません。
Swayback姿勢はこのように
という姿勢をしています。
では、主な関節がどのような肢位になるのか予想を立ててみましょう。
まずは脊柱です。
頸椎:頭部の前方変位に伴い、下位頸椎の平坦化+上位頸椎の過伸展
胸椎:後弯増強
腰椎:骨盤後傾に伴い平坦化
- 肩関節について
胸椎後弯により肩甲骨は外転位増強
上腕骨に対し肩甲骨が外転方向に動くので
肩関節は肩甲骨に対し、上腕骨が内旋・伸展位
- 股関節について
骨盤後傾+前方変位に伴い
寛骨臼が大腿骨頭に対して前方へ動くので
股関節は寛骨臼に対し大腿骨が外旋・伸展位
以上のように予想を立てることができます。
患者さんに状態を伝える際には、姿勢が悪いから痛みがでていますと伝えるだけではなく、
不良姿勢がなぜ痛みの原因になっているか、
これを伝えて改善していくには何が必要なのか、
ここまで説明して初めて姿勢分析・動作分析を取り入れた治療ができていくと思います。
ではこのSwayback姿勢は
どのように体に作用するのでしょうか?
股関節を例に説明をしていきます。
骨盤の後傾と前方変位により臀筋群とハムストリングスの短縮が考えられます。
反対に大腿筋膜張筋や大腿四頭筋などは伸張されるのもお分かりになると思います。
さらに、生活の中にある外力である重力の影響も考えなければいけません!!!
通常姿勢では矢状面からみた場合、重心線は股関節のほぼ中心を通過しますが、
Swayback姿勢による骨盤の前方変位がみられるため、
重心線が股関節の後方を通過します。
この姿勢は骨による安定化ではなく、筋による股関節の安定化が必要となってしまいます。
この状態の股関節に重力がかかると、立位姿勢での股関節の伸展がより出てしまうため、
それを止めるために股関節屈曲筋である大腿筋膜張筋や大腿直筋の収縮が必要になってしまいます。
以上のことをまとめると、
大腿筋膜張筋や大腿直筋は伸張されながら収縮することを求められるため、遠心性収縮となります。
骨盤後傾+前方変位があると、その姿勢を維持するために股関節屈曲筋の筋活動が活発的になり、
反対に股関節伸展筋の活動は減弱してしまいます。
股関節だけでもこれだけの影響がありますが、ここでSwayback姿勢がもたらす身体への影響を考えてみましょう。
図の姿勢のようにSwayback姿勢の場合、通常の姿勢よりも重心が後方へ移動します。
重心が移動するということは、通常とは違う筋の使われ方になるということは想像できると思います。
なぜ遠心性収縮や重心の位置が変化すると良くないのか、
これは姿勢制御の観点から、各関節へかかる関節モーメントが変化するからです。
関節モーメントについてはこちらをご覧ください。
実際の現場でSwayback姿勢かどうか見極めるにはいくつかの方法があります。
今回は簡単に評価できる3つの方法をご紹介いたします。
①矢状面からのアライメント評価(写真撮影などを用いて)
一つ目は全身の姿勢を横から撮影し、評価します。
簡単な方法としては、上半身と下半身を分け、それぞれの重心の位置に前後差があるかどうか。
上半身の重心はTh7~9あたりで下半身の重心は大腿の半分よりやや上方です。
Swayback姿勢の場合上の写真のように、
上半身に対し下半身が前方にあるような姿勢であることが確認できます。
時間がない場合は目視でも問題ありませんが、慣れていない場合は画像として保存しておくことで、
確認だけでなく患者さんへの説明や治療やエクササイズなどのアプローチ後との前後評価や、
1週間や、1か月など経時的変化を追うことができます。
②片脚立位での評価
単純に片脚で立ってもらいます。
できそうな方にはバランスディスクなど、不安定な場所に片足立ちをしてもらいます。
これは、いつも姿勢の安定化のために使っている筋を、不安定な状態にし、強制的に動員させることで、
どのような姿勢で安定させようとしているのかを確認します。
Swayback姿勢の場合、いつも姿勢を安定化させようと働く筋が動くので、
その筋を安定化に用いようとさせるため、Swayback姿勢が顕著に現れます。
③軸圧抵抗による評価
最後は頭上から肩甲棘上の中央に軸圧をかけ、疑似的に重力を強めます。
(上の写真青の点)
後方に重心がある場合、上から押されて、踵に体重が乗る感覚が感じられます。
さらにSwayback姿勢の場合、臀筋での姿勢維持が上手くできず、膝が曲がってしまったり、
骨盤が前方へさらに変位したりするのがみられます。
各関節や細かなアライメントの確認はこちらの記事をご確認ください。
いかがでしたでしょうか?
Swayback姿勢について書かせていただきましたが、上記のことはあくまで全体像であり、
3つの評価のみで判断し、当てはまる治療を行うのはとても危険です。
全体像を把握したうえで、各関節や上下の関節との関係性をチェックすることや、
痛みの出る動作を確認し、何が原因で痛みが出ているのかをしっかりと把握して治療をしなければいけません。
全体像をつかみ、自分の予想を立てながら、細かなアライメント評価をし、動作分析に繋げていく。
「こうなっているから、痛みが出ている。」
と説明するための最初の一歩は、冒頭でも出ました、
「木も見て、森も見る」の「森を見る」なのではないでしょうか。
これからの治療に姿勢分析や動作分析を取り入れようとお考えの方は、
まず初めに全身がどのような姿勢であるのか、これを考えるようにしてみてはいかがでしょうか。
そこから悪さをしていそうなポイントへフォーカスを当て、確認し、また全体と比較する。
これの繰り返しが、患者さんのためになると思っています。
引用・参考文献
1)KENDALL, Florence Peterson, et al. Muscles, testing and function: with posture and pain. Baltimore, MD: Williams & Wilkins, 1993.
2)Shirley A.Sahrmann著 運動機能障害症候群のマネジメント 医歯薬出版株式会社 2005
3)A: D.A.Neumann 著 筋骨格系のキネシオロジー 医歯薬出版株式会社 2018
アーチ鍼灸整骨院
坂本裕哉:柔道整復師