【膝前十字靭帯損傷と下肢アライメントの関係】
【膝前十字靭帯損傷と下肢アライメントの関係】
膝は4つの大きな靭帯で大腿骨と脛骨を繋いでいます。その4つというのは、
・前十字靭帯
・後十字靭帯
・内側側副靱帯
・外側側副靱帯
大腿骨の後ろあたりから脛骨の前部分に向かって通っているのが前十字靭帯、
クロスしているもう一方が後十字靭帯、側面に内側、外側側副靭帯があります。
今回は、特にスポーツ活動中に損傷してしまうケースが多く、その後の生活やスポーツ活動に大きな影響を与える「膝前十字靭帯損傷と下肢アライメントの関係」について書いていきたいと思います。
前十字靭帯(Anterior Cruciate Ligament)は、略してACLと呼ばれますね。
以後ACLと書いていきます。
ACLとは・・・
大腿骨外側顆の顆間窩面後方部から起始し、脛骨顆間窩隆起の前方に停止する靭帯です。
その役割は大きく3つ。
1.大腿骨に対する脛骨の前方移動を抑制する。
2.膝関節伸展位で最も緊張するため膝関節過伸展を抑制する。
3.下腿の内旋を抑制する。
切れてしまうとその役割は全うできなくなるのは想像がつきますね。
この役割がない膝は、脛骨の動きを抑えられないグラグラの不安定感抜群ということです。
安定性が損なわれていると歩行時のラテラルスラストにもつながります。
ACLを損傷する場面
いったいACLを損傷するのはいつなのでしょうか?
・切り返しなど方向転換をした時
・ジャンプの着地時
・加減速した時
・ストップ動作
・他の選手との接触
サッカーやバスケットボール、バレーボール、ハンドボール、ラグビーなど切り返しやジャンプ動作の多いスポーツに多発する怪我です。また、例外でスキーでの受傷も多いです。
では、動作中の損傷のメカニズムとしてはどうでしょうか。
接触と非接触での受傷がありますが
ACL損傷は、主に次の4つの動作を強制されることで受傷します。
1.膝の外反・下腿内旋(下腿外旋)
2.膝の内反・下腿内旋
3.膝の過伸展
4.脛骨の前方引き出し
その中でも膝の外反強制は特に大きな要因となります。
このような動作中のメカニズムのほかにも、ACL損傷の原因(リスクファクター)があります。
この原因(リスクファクター)はいくつか明らかになっています。
・女性
・脛骨後方傾斜の増大
・体幹筋の不足
・大腿四頭筋とハムストリングの筋力のアンバランス
・着地時の股関節屈曲角度の低下
・動的な膝外反
・疲労
などなど。
これから変えられるものもあれば、そうでないものもあります。
この「変えられるもの」をどうにかしていくことで、受傷してしまった人は再受傷のリスクを減少させ、ACL損傷しやすい競技や選手は予防することが可能なはずです。
その中でも、下肢アライメントを考えると
まず、大腿と下腿の軸は合わせていかなければなりません。
下腿に対して大腿が内旋している場合。
大腿に対して下腿がより外旋している場合。
どちらにしても大腿と下腿のねじれが大きくなれば、ACLに対する回旋ストレスも大きくなります。
静的アライメントで回旋が大きければ、動作中の回旋はより大きくなりストレスを改善することは難しいと思います。
- 大腿四頭筋とハムストリングの筋力のアンバランス
H/Q比が大切といわれる中で、特に女子選手は大腿四頭筋に対してハムストリングの筋力が弱い傾向にあるといわれています。
単体での大腿四頭筋やハムストリングのトレーニングをしてバランスを整えるということもできますが、
骨盤のアライメントが不良だった場合、骨盤後傾位だとすると、
ハムストリングは短縮位となり歩行・ランニングや動作時では、大腿四頭筋優位での筋活動となることが考えられます。この状態でプレーを続けていれば、どうしても筋力バランスは崩れやすい状態でスポーツ活動をすることになってしまいます。
・着地時の股関節屈曲角度の低下
また、着地時の股関節の屈曲が小さいとACL損傷のリスクが上がるといわれています。
骨盤後傾位の場合、股関節よりも膝関節優位での動作になりやすくなるため、リスクが上がります。
このような点から考えると、骨盤前傾位(正常範囲)で股関節がつかえることが、まずは必須条件となるでしょう。
膝伸展筋に頼らず、股関節伸展筋を使い、股関節での力の吸収をできるようにする。
「股関節を使う」ということを簡単に言いますが、意外と使えていない競技者はとても多く、大きな課題です。なぜ使えていないのかを見つけ、リハビリ、トレーニングを行っていくことが必要です。
これはACL損傷に限った話ではなく、多くのスポーツ障害・外傷を予防する上でも大切なことだと感じています。
・動的な膝外反
動的な膝外反は、前で書いたように股関節で力を吸収できるようにすることと共に、
股関節の内転位に注意しなければなりません。
中殿筋の筋出力強化
内転筋の遠心性制御
等が大切になってきます。
リハビリやトレーニングをしていると筋の求心性収縮ばかりではなく姿勢保持や動作時の安定のためには筋の遠心性収縮のトレーニングが大切になってくるかと思います。
また、動的な膝外反を止めるためには、ジャンプやストップ、切り返しの動作学習も必要です。
ACL損傷をして、手術やリハビリに多くの時間をかけ、そしてスポーツ復帰をしている選手は多くいるかと思います。
その裏側にある選手の想いを考えると、その時間でその後、それまで以上の競技復帰ができるよう、そして再受傷しないよう、私たちはリコンディショニングしていかなくてはいけません。
また、一人でもACL損傷をしてしまう選手が出ないよう予防していくこともできるはずです。悔しい思いをする選手が一人でも減るよう伝えていかなくてはいけませんね。
岩瀬 優子(いわせゆうこ) 【鍼灸師・アスレティックトレーナー】
スポーツラボ鍼整骨院 千種