【Sway back姿勢から考えるオスグッド病、ジャンパー膝】
臨床の中で必ずと言って良いほど診る機会がある膝関節前面の痛み。
スポーツをしている小学生〜運動する機会もほとんどない高齢者まで、あらゆる人が膝の前面の痛みを訴えます。
膝関節前面の痛みの代表例として
・ジャンパー膝
・オスグッド病
・大腿四頭筋腱炎
・膝蓋下脂肪体炎
などが挙げられますが、なぜこれだけ運動量に差があるにも関わらず痛みが出る場所は同じなのでしょうか?
それは、
身体重心の後方変位より膝関節にかかる負荷が増加するからです。
まずは膝関節にかかる負荷が増加する原因を姿勢からお伝えします。
※厳密には関節モーメントは、身体質量中心(重心)に向かう床反力の大きさと各関節軸との距離によって決定されます。ただし、膝関節や股関節においては、その誤差は生じるものの、身体質量中心ではなく上半身質量中心を観察し、各関節との位置関係・距離を判定することで、およその関節モーメントは推測可能になるとされています。そこで本セミナーでは、上半身重心を観察点とすることをお勧めしております。
《Swcy back姿勢》
Sway back姿勢とは、
以下の写真のような姿勢をいいます。
【K-1セミナー資料より引用】
①胸椎の屈曲=後弯増強
②骨盤の後傾
以上の2点により、Sway back姿勢では上半身は後方へ変位します。
ですがこのままでは身体重心が支持基底面から外れてしまい、バランスを保てなくなってしまいます。
そうならないために、人間の身体は姿勢制御をします。
姿勢制御:外力(重力、反力)によって身体が倒れそうになるのを筋力で制御し、支持基底面内に身体重心を納めて倒れないようにすること
下の写真はSway back姿勢の方の姿勢制御の際の関節モーメントを記した図になります。
【K-1セミナー資料より引用】
内部関節モーメント≒筋張力(筋力)
外部関節モーメント=重力、反力
白丸=身体重心
であると考えてください。
写真のように身体重心が後方にある場合、上半身は外力により後方へ変位するため黒矢印のような外部股関節伸展モーメントが生じます。
そして姿勢制御をするために白矢印のような内部股関節屈曲モーメントが生じます。
この時内部股関節屈曲モーメントとして働く筋肉が
大腿四頭筋(大腿直筋)になるのです。
つまりSway back姿勢の方は、常に大腿四頭筋(大腿直筋)によって身体を支えているということになります。
また、骨盤の後傾は臀筋やハムストリングスの短縮、機能不全により起こります。
後面の臀筋やハムストリングスが使えていないために
前面の大腿四頭筋に過度な負荷がかかるということです。
当然、この状態で生活をしていれば大腿四頭筋や膝関節にかかる負担はかなり大きくなりますよね。
高齢者の方であれば大腿四頭筋の筋力が落ちてきたことにより体重を支えきることが出来ずに膝関節の痛みが出ます。
ジャンプやスプリント、持久走を繰り返すアスリートや成長期の学生であれば、大腿四頭筋の硬さや牽引ストレスにより
ジャンパー膝やオスグッドシュラッター病などの膝蓋腱炎や大腿四頭筋腱の付着部炎になる原因にもなります。
では膝関節前面の痛みを出さないために
どのようにSway back姿勢を改善していくのか。
先程の写真のような関節モーメントで膝関節の前面に痛みが出てきてしまうので、単純に身体重心の位置関係を変えてあげれば良いのです。
身体重心を前方に乗せ、臀筋やハムストリングスに刺激を入れて滑走が出るようになれば大腿四頭筋を過度に働かせる必要はなくなります。
そのために行うのがスクワットです。
今回行うスクワットは下の写真のような形で行います。
・股関節を屈曲させる
・坐骨結節部に向かって後下方に 体重を乗せる
・足裏全体に体重が乗ることを意識する (足趾が浮かない)
・膝は前に出さない代わりに上半身を 前に出す
実際臨床で行う際は
この4点を特に意識してもらうとよいかと思います。
特に坐骨結節部に向かって股関節を屈曲していくだけでは後方重心になり大臀筋下部を使うことができないため、足趾が浮かないよう前方に重心を乗せることを意識させることが重要です。
また後方重心を改善しようと膝を前に出す 場合も大腿四頭筋に刺激が入ってしまうため、上半身の位置を前にすることで重心をコントロールする必要があります。
大臀筋下部に関しては今まで使っていなかった場所に刺激を入れるため、前方に荷重をかけられていたとしてもピンポイントで刺激が入る感覚が分かりづらい場合もあります。
その場合、最初はハムストリングスの上部に刺激が出ていれば問題ないです。
繰り返しスクワットを行うことでハムストリングスの滑走も良くなるため、徐々に大臀筋下部にピンポイントに刺激が入るようになります。
高齢者でバランスを取るのが難しい方は
イスなどを前に置き、背もたれを持ちながらスクワットを行うと安定して行うことが出来ます。
回数は患者様の年齢や競技レベルなどにもよりますが、
高齢者の場合は10回〜15回
アスリートの方であれば20回×2セット
が目安ですが、患者様の痛みの状態や目標によって回数や
セット数は調整して行ってください。
今回は誰にでも起こりうる膝関節の前面についてお話ししました。
臨床でもよく遭遇する症例ではありますが、患者様それぞれ
姿勢や原因は異なるため、今回の内容を指標の一つとして取り入れていただければ幸いです。
治療の選択肢が増えれば、痛みがなくなる可能性も高くなるはずです。
〈参考文献〉
K1セミナー
福井 勉:結果の出せる整 形外科理学療法ー運動連鎖から全身をみるー、メジカルビュー社,東京,2009
アシスト鍼灸整合院
鍼灸師 辻岡伸也