大胸筋の短縮に伴う上位胸郭への影響について
【大胸筋の短縮に伴う上位胸郭への影響について】
今回は大胸筋の短縮によって伴う上位胸郭への影響について
お話させて頂きます。
【胸郭・上位胸椎とは】
胸郭は
胸椎・肋骨・胸骨
から構成され
上位胸椎はTh1~7
と一般的に表されます。
まずは大胸筋の作用について整理してみましょう。
【大胸筋】
鎖骨頭
起始:鎖骨内側半分
停止:上腕骨の結節間溝の外側唇
作用:肩関節屈曲
胸肋頭部
起始:胸骨および第2~第4肋軟骨
停止:上腕骨の結節間溝の外側唇
作用:肩関節内転、水平内転、内旋、
肩甲骨下制、下方回旋と外転
腹頭部
起始:第5および第6肋骨および外腹斜筋膜
停止:結節間溝の外側唇
作用:肩関節内転と内旋
<筋肉とキネシオロジーより>
このように大胸筋は肩関節だけでなく、
肩甲骨の動きにも作用します。
という事は、大胸筋が短縮することによって、
それに伴い肩甲骨を外転・下方回旋させてしまう作用が働きます。
また上位胸郭の可動性が制限され、
胸郭の前胸部・上背部のスティフネスが起こります。
このセミナーやコラムでもよく出てくるSway back姿勢などでも、
大胸筋の短縮について取り上げたかと思います。
前胸部の短縮が起こった人に対して有効なのが
ベンチプレスやダンベルフライなどのトレーニングでした。
ですがここで気を付けておきたい事があります。
大胸筋短縮時、上位胸郭を細かく観察すると
前胸部の可動域が制限され、肩甲骨に対して上位肋骨は後方変位します。
という事は、上位肋骨に対して鎖骨は前方変位(前方移動)していることになります。
この際に大胸筋の短縮を取り除くのも
前胸部の可動域を広げるために大事なことですが、
もう一つ大切なことは
肩甲骨に対して上位胸郭の前方への可動域を改善することです。
大胸筋の短縮に伴い、上位肋骨が後方に変位すると
肋骨全面の可動域が低下し、
特に第2~3胸肋関節部や肋骨中心部の可動域が制限されやすくなります。
また、胸肋関節部の可動域が制限され後方変位が強くなると、
胸椎の後弯が強くなり、それに伴い起立筋群の可動性・出力が低下します。
これにより、後方重心化やsway back postureとなりやすくなることが考えられます。
こうなってしまうと大胸筋の癒着を取り、
前胸部の拡大を行おうとしても
上位胸郭の前方への可動域が制限されやすく、
前胸部が効率よくストレッチされないアライメントになってしまいます。
つまり、この状態でダンベルフライを行っても、腰椎の伸展代償が入ってしまい、
腰痛を起こしたり、上腕骨頭が前方突出していまい、肩の痛みに繋がってしまう可能性があるのです。
↑腰椎伸展代償
↑正しいフォーム
前胸部を拡大する為にダンベルフライを入れてみる。
間違いではありませんがまずは、前胸部拡大に必要な可動域が出ているのか
確認をする事が必要だと思います。
では、どのようにしてそれを確認・評価するのか?
その上位胸郭の可動域を確かめる方法としては、まず、側臥位で上位胸郭を前方に押し出します。
この時、肩甲骨を内転させてしまうと、上位胸郭の可動域が出ているのか
的確に判断することが出来ない為
肩甲骨は固定した状態で、上位胸郭を前方に押し出すように行いましょう。
〈D4 セミナーより〉
上位胸郭を前方に出した際に、可動域が出ていない場合は
胸肋関節部の可動域制限があり、圧痛を感じる場合があります。
特に2,3胸肋関節部の可動域は制限されやすい為、
圧痛を確認するようにしましょう。
〈D4セミナーより〉
また、先ほどお話したように
大胸筋の短縮に伴い上位胸郭が後方に変位すると、
前胸部、上背部の可動域制限が起こってくることもしばしばです。
そうなると、吸気時上位胸郭が拡大できず、
下位胸郭の拡大で吸気する事になり、腹筋機能の低下などをも招きます。
また、後方重心や前足部荷重不良が起こったりと、
前胸部の可動域制限を助長してしまうのです。
そして上位胸郭が後方に変位し、上背部の組織や広背筋、僧帽筋上部で受動的に姿勢維持をするようになり、
背部や頸部に張り感や痛みを訴えるようになってしまいます。
今回は大胸筋の短縮に伴う上位胸郭についてお話させて頂きましたが、
胸郭のアライメントには、脊柱アライメントも大きく関わってきますので、そちらへのアプローチも必要になるかもしれません。
痛みに対して何が一番の原因なのか。
それを見つけることで、痛みの改善に一歩つながるのではないでしょうか。
<参考文献>
・K2セミナー
・K4セミナー
・D4セミナー
・筋肉とキネシオロジー9.0 VISIBLE BODY
スポーツラボ鍼接骨院
【柔道整復師】伊藤 百花