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歩行時の上半身・胸郭

「投球障害肩を歩行動作から診る」 ――なぜ“肩”を診るのに“歩行”をみるのか?――

「肩と歩行?本当に関係があるの?」

 

 

多くの方がそう疑問に思うかもしれません。

 

今回、歩行動作をテーマに上げたのは、投球動作が、下肢、体幹、上肢の連続的かつ,

爆発的な運動の結果であるためです。

 

また、投球動作自体をみることに不慣れだったり、自信が無い場合、

投球動作以外から全体像を把握するヒントを得ることもできると考えました。

 

私自身、最初は“局所”ばかりを診ていました。。。

しかし、臨床に出ていると、投球傷害をはじめとする肩のスポーツ障害は、単独では起こらず、複数の原因が絡み合っていることが多い様に感じました。

疫学調査では、肩インピンジメントの症状が単独で起こっている確率はかなり低い1)ことも報告されています。

 

そんな原因、症状が混在する肩傷害について、「歩行」という全身動作から評価・介入する可能性を、臨床例を交えながら考えていきたいと思います。

 

 

【症例】

◻︎年齢  18歳 

◻︎性別  男性

◻︎種目  野球

◻︎ポジション  投手(右投げ)

◻︎部位  右肩関節後方部痛

◻︎その他

 ・1ヶ月以上前から軽い痛みがあった

 →1週間ほど投球を控えたが、再開後痛みが増加し来院 

 ・習慣的に肩周辺のストレッチやマッサージを行っていた

 

 

 

【本コラムのコンテンツ】

①投球傷害に見られるインピンジメント症候群

②投球動作を理解する

③歩行動作から肩を診る

 

 

①投球傷害に見られるインピンジメント症候群と原因

 

臨床において、最も多く出会う症状の1つ、インピンジメント症候群。

インピンジメントは「衝突」を意味し、2つ以上の組織が関わってきます。

 

 

肩には大きく3つの種類が存在します。

・肩峰下インピンジメント

・前上方関節内インピンジメント(ASI)

・後上方関節内インピンジメント(PSI)

 

 

1つ目の肩峰下インピンジメントは、上腕骨頭と烏口肩峰アーチによって、間を滑走する肩峰下滑液包、腱板、上腕二頭筋長頭腱(LHB)などが挟まれることで発症する傷害です(図1 )。

投球などで繰り返しストレスを受け、上肢挙上時痛(Painful arc)が見られます。


( 図1     肩峰下インピンジメント発生部位の解剖図)

 

 

2つ目の前上方関節内インピンジメント(ASI)は、腱板やLHB、上関節上腕靱帯が、上腕骨頭と関節窩縁に挟まれることで発症する傷害です(図2 )。

肩関節屈曲、内転動作で生じるため、投球においては、加速相以降で生じることが考えられます。

 

(図2  ASI発生部位の解剖図)

 

 

3つ目の後上方関節内インピンジメント(PSI)は、一般的にインターナルインピンジメントと呼ばれる傷害です(図3)。

肩関節外転外旋時に、上腕骨頭と関節窩後上縁の間で、関節唇と腱板関節面が挟まれて生じます。

ここに水平伸展の要素が加わるとさらに関節内圧は局所的に上昇します。

 

(図3 PSI発生部位の解剖図)

 

 

今回の症例は、いくつかの肩関節のスペシャルテスト、痛みの出現場所と投球時の疼痛発生タイミングから、3つ目のPSIである可能性が高いと判断しました。

 

PSIは投球時において、肩関節最大外旋位(MER)の前後で発生することが多いです。

 

つまり投球においては、レイトコッキング相〜加速相で生じます。

 

では、投球動作を考えていきます。

 

 

②投球動作を理解する

 

 

投球相は画像のように分類されます(図4)。

 

図4  投球動作の各相図解 ( 文献2)より引用 )

 

 

ワインドアップ相

↓  

ストライド相

↓       ストライド足接地

コッキング相

↓       肩関節最大外旋位(MER)

加速相

↓       ボールリリース

減速相

↓       肩最大内旋位(MIR)

フォロースルー相

 

 

今回の症例にあるPSI(後上方関節内インピンジメント)に関して、

肩関節の外転外旋+水平伸展で

より関節内圧の上昇、

症状の再現ができるため、

コッキング相後半〜加速相にかけて

の症状であると先述しました。

 

 

コッキング相は、

 

ステップ足接地から

投球側肩最大外旋位(MER)まで。

 

MERに向けて、

肩関節外旋角度と外転角度は

増加し、最大外旋角度は145°にもおよぶ3)。

 

また、

 

コッキング相前半で

骨盤の回旋角速度はピークを迎え、

 

コッキング相後半で

体幹の回旋角速度がピークを迎えます。

 

この時、

回旋運動は上行性に作用し、

肩甲上腕関節には

外部水平伸展モーメントが加わっていきます。

 

しかし、

ここで重要なことは、

水平伸展量が球速に関係無い

ということです。

 

 

加速相は、

肩関節最大外旋位からボールリリースまで。

 

肩関節外旋位から

急激に内旋運動に切り替わり

ボールをリリースします。

 

ここまでで、PSIの症状が、

投球のどのフェーズで出てくるかが

イメージできると思います。

 

PSIの症状を抑えるためには、先述した、

水平伸展角度をいかにコントロールするか。

 

なぜなら、

球速に関係が無い、

つまり、パフォーマンスに影響がないのに

関節内圧を上昇させ、

怪我のリスクを上げてしまうからです。

 

ではここでPSIの症状が出る、

MERのタイミングの肩関節の

可動性についてまとめてみましょう。

 

ここからは症例通り、

右投手で話を進めていきます。

 

 

MERでは、

 

肩甲上腕関節ー外転・外旋・(水平伸展)

 

肩甲骨ー後傾・内転

 

胸椎ー右回旋(骨盤に対して)

 

が生じてきます。

 

 

ここでのポイントは、

 

 

胸椎ー骨盤

 

胸郭ー肩甲骨

 

肩甲骨ー上腕骨

 

の位置関係です。

 

 

ここでは空間的と相対的なアライメント

を理解する必要があります 4)。

 

【空間的アライメント】

→空間上で、どういう状態、肢位にあるか

 

【相対的アライメント】

→近接した肢節に着目して、一方の肢節に対してもう一方の肢節がどういう状態、肢位にあるか

※例えば、大腿に対して下腿が外旋位なのか内旋位なのか

 

ではMERでの各関節の位置関係の話に戻ります。

 

まず 胸椎ー骨盤 です。

 

先述した通り、

コッキング相では、

骨盤の回旋が先に生じ、

その後、体幹部が着いて行くように回旋します(図5)。

 

(図5 骨盤と体幹の相対的な回旋位置関係)

 

そのため、骨盤は

正面(キャッチャー)側を向き、

それよりも体幹は

右を向いていることになります。

つまり、相対的に胸椎は右回旋になります。

 

 

次に 胸郭ー肩甲骨 です。

 

胸椎は左(キャッチャー側)に回旋していきます。

 

それに対して、

肩甲骨はその場に留まるように動くため、

肩甲骨内転運動(赤矢印)が生じます(図6)。

図6 胸椎左回旋に伴う相対的な肩甲骨内転

 

最後に 肩甲骨ー上腕骨 です。

 

肩甲骨は先述した通り、内転(※後傾も含む)しています。

 

上行性に回旋運動が起こっていると、

上腕骨は取り残されるように

その場にとどまります。

 

この際、上腕骨は外転・外旋し、

水平伸展に向かいます。

 

ここで問題となるのは、

肩甲上腕関節における

水平伸展角度の過剰な増加です。

 

水平伸展角度が増加するのは、

肩甲骨の外転角度が増加する時です。

※厳密には肩鎖関節の内旋運動もですが、これは肩甲骨の外転運動とともに増加していきます。

 

つまり、MERのタイミングで、

 

胸椎の左回旋(骨盤に対しては相対的な右回旋)と伸展が生じた時に、

 

肩甲骨内転(・後傾)可動域が確保できれば、

 

肩甲上腕関節外転・外旋に加えて生じる

水平伸展角度を抑えることができる

 

ということになります。

 

ここを踏まえて、

実際に歩行動作では

何を診るべきなのかをお伝えします。

 

 

 

③歩行動作から肩を診る

 

歩行分析をする時のポイントは、

 

◻︎肩関節伸展相を捉える

 

◻︎骨盤の前方回旋と高位を捉える

 

大きくこの2つです。

 

 

今回は、“肩関節伸展相”を

深掘りしていきます。

 

歩行において

肩関節の伸展相では何を診るのか。

 

ずばり、

 

肩甲骨内転運動

 

胸椎の右回旋運動

 

です。

 

 

PSIの症状を発症するパターンとして、

肩甲骨内転制限がありました。

 

肩甲骨内転運動が制限されれば、

その他の関節に影響が出るはずです。

 

つまり、代償運動を捉える必要があります。

 

ここで押さえておきたいのがトレードオフ(Trade-off)の考え方です 4)。

 

「一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ない状況・関係」(Wikipediaより)

 

例えば、前屈をした際に通常、

股関節が屈曲します(図A)

 

しかし股関節に屈曲制限があると、

腰椎の屈曲が増加します(図B)

 

骨盤の前傾角度(赤線)に差が生じて見えますね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図A 股関節屈曲が確保できている

図B 股関節屈曲制限を腰椎屈曲で代償している

 

 

では、肩甲骨の内転運動が出ないと何が生じると考えられるでしょう。

 

個人差はあり、いくつか考えられますが、

 

1つが、下位胸椎の伸展代償です。

 

肩関節の伸展相で

肩甲骨内転運動に制限が生じる

↓

胸椎の右回旋量の増加

↓

不十分な可動域を

下位胸椎の伸展で代償し、

リブフレア現象が見られる(図7)

 

図7 歩行時のリブフレアの矢状面図

 

リブフレア現象についてはこちら

 

 

この場合、

 

前額面上で右肩の下制(図8)

図8 前額面で見た右肩下制

 

 

矢状面上で下位胸椎(右肋骨の前方変位)の伸展などが見られます。

今回の症例ではその様子が確認されました。

 

 

また、今回は触れませんでしたが、

 

右肩の伸展量が減少すれば、歩幅にも影響が出てくることも予想できます。

 

今回ご紹介したのは代償パターンの一例に過ぎず、

他にも多くのバリエーションが存在します。

 

歩行による全体像の把握、局所の評価・介入を経て、再度全体像を捉える。

 

この流れが大切です。

 

 

投球傷害肩の患者様が来られた際、

 

局所を評価・介入することは必須ですが、

 

そこに加えて、歩行による全体像の把握、

 

そして、投球動作を確認することが重要です。

 

 

今回は、歩行動作を診ることで、

全体像の把握につながるのではないか

と考えコラムを書かせていただきました。

 

 

本コラムが、

投球傷害肩の評価や治療における

新たな視点としてお役に立てば幸いです。

 

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

 

 

 

【参考文献】

1)原田幹生他:中学野球選手における肩関節内インピンジメントについての検討、日本肩関節学会、「肩関節」第42巻,第2号,2018

2)岩本 航:肩のスポーツリハビリテーション:日本医事新報社:2022,2,9

3)宮下浩二他:投球動作の加速期における肩甲上腕関節外旋運動と肩甲骨後傾運動の分析、臨バイオメカニクス(30):395-400,2009

4)K 3セミナー資料

リブフレアURL:D4セミナーより

 

 

藤田 悦史

(資格)

鍼灸師

アスレティックトレーナー

 

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