セラピスト向け【膝の痛みを上半身質量から診る】
膝の痛み…
日々の治療の中でも膝の痛みに悩まれている方と遭遇することは多いのではないでしょうか?
今回は私の経験も交えつつ、膝の痛みについてお話していきたいと思います。
今回お話しする膝の痛みは仕事で長時間立っていることが多い方の膝蓋下脂肪体の痛みと膝裏の違和感です。
【患者さんのプロフィール】
・40代女性
・保育士として働いている
・1年ほど前から膝に痛みが出始め、仕事終わりに左膝蓋骨の下、膝裏に痛みが出る
【理学所見】
・痛みを訴えている場所は膝蓋下脂肪体で圧痛もあり、
膝裏はぼわーっと広範囲で限局的ではない痛みが出る
・膝関節伸展制限ややあり
仰臥位、長座位時の膝関節の伸展可動域を確認したところ、差はなかったため股関節屈曲拘縮による見かけ上の膝関節伸展制限ではなく、膝関節そのものの伸展制限だと考えた。
・左の骨盤後傾に対して大腿骨は外旋
そして脛骨は大腿骨に対して外旋。いわゆる左骨盤前方回旋で踏み出し脚
この患者の膝の痛みを治していく上でまず取り掛かることは
①膝の回旋ストレスを少なくする
②骨盤前方回旋による膝伸展機構にかかるモーメントを少なくする
この2つが考えられるのではないでしょうか。
ここから説明していく前に膝蓋下脂肪体について知っておくと話が入ってきやすいと思いますのでこちらの記事を先にお読みください。
コラム 【膝蓋下脂肪体はなぜ悪物にされるのか】
①膝の回旋ストレスを少なくする
K3やD2セミナーでも取り上げられた健側、患側評価を行います。
①膝蓋骨、脛骨粗面の位置を確認し、下腿の外旋量を確認


②大腿遠位を押さえて下腿近位の内旋可動域があるのか確認
*写真は患側を確認しています


①の評価で患側(左膝)のほうが膝蓋骨に対して脛骨粗面が外側に位置し、
②の評価で患側(左膝)は下腿内旋が最終域まで動かず、下腿後内側で止まる感覚がある
そこに対してのアプローチとして、下腿近位部の前下腿筋間中隔をリリースし、内旋方向に誘導
さらに、下腿内旋を制限していると考えられた後方関節包内側(腓腹筋内側頭と半膜様筋間)をリリース。
その結果、下腿の内旋が出て、膝蓋下脂肪体の圧痛が半分以下になり、
仰臥位で他動的に膝関節の伸展強制したところ、アプローチ前に膝蓋下脂肪体と膝窩に出ていた痛みが消失しました。
②骨盤前方回旋による膝伸展機構にかかるモーメントを少なくする
左骨盤前方回旋では、矢状面で右に比べてより遠くに左足が接地することになります。
その結果、身体重心から膝関節までの距離が遠くなり、右に比べて外部膝関節屈曲モーメントが大きくなります。
この時、膝がそれ以上、屈曲しないように膝伸展筋である大腿四頭筋が耐えようと働きます。
この外部モーメントに対して働く力を内部モーメントといいます。
今回の場合、内部膝関節伸展モーメントが増え、膝伸展機構にかかるストレスを増やしていました。
また理学所見で示したように、骨盤後傾位では、大腿四頭筋の遠心性収縮も誘発されます。
その際、大腿四頭筋(特に外側広筋)を覆う大腿筋膜も緊張し、内圧も上がるため
大腿筋膜張筋とその深部に位置する中臀筋前部の滑走不全が生じていると判断し、アプローチを行いました。
そして、骨盤後傾・骨盤前方回旋アライメントにより、短縮位になっている外旋筋にもアプローチを行いました。
外旋筋の短縮やその表層に位置する大臀筋との滑走不全は、骨盤前傾位を保持するための大臀筋機能の妨げになるため
ここへのアプローチは重要です。
ここまでの①・②の治療でVASは10分の2まで落ち、膝の伸展制限も改善されました。
しかし、そこから痛みをスッキリとることはできず、治療後は痛みがなくなっても次、来院された時に痛みが戻っているという状態でした。
そこで注目したのが、上半身質量中心(U-COG)*です。
*厳密には関節モーメントは、身体質量中心(重心)に向かう床反力の大きさと各関節中心からの距離によって決定されます。ただし、膝関節や股関節にかかる関節モーメントについて、身体質量中心ではなく上半身質量中心を観察し、各関節との位置関係・距離を判定することで、簡易的に関節モーメントが推測可能になると考えています。
そこで、わたしたちが開催するセミナーでは、上半身重心を観察点とすることをお勧めしております。
上半身質量中心は第7胸椎レベルの位置で剣状突起のあたりです。
今回の患者さんの場合、
矢状面で見たU-COGが骨盤よりも後方にある、いわゆるswaybackでした。
Swaybackでは、後方重心になり上半身質量中心と膝関節との距離が遠くなり、それ以上、重心が後方にならないように大腿前面の筋肉が遠心性収縮で制御をしますよね。
余計に大腿前面の筋肉を使う要因になっていました。

さらに、前額面、水平面で見た時に左下位胸郭が後方に引け、U-COGは左に偏位していました。
歩行においては、骨盤回旋アライメントから左が踏み出し脚となり、膝の負担が増えていたことに加え、U-COGの点から見ても左下位胸郭が後方に引けてしまい、右と比べて後方重心傾向が強く、膝伸展機構にかかるモーメントを増やしていました。
患者さんにこの姿勢になる原因で思い当たるものを聞いたところ園児を抱っこする姿勢であることが分かりました。



そこで
・上半身質量中心を前方化すること
・U-COGが左に変位していたものを中心に戻すこと
この2つにより改善していきました。
・上半身質量中心の前方化は上位胸郭の後方偏位を少なくすることで改善できると思い、短縮位になっている大胸筋、小胸筋をリリース、ストレッチ、トレーニングしていきました。
上半身質量中心前方化トレーニングはこちらのコラムで取り上げられているダンベルフライをしてみてください。
・ U-COGが左に変位していたものを中心に戻すことは写真のように左腰部(腰方形筋)、左脇腹(前鋸筋)の短縮が強かったため、リリース、ストレッチすることでU-COGを中心に戻すことができました。


そうすることで最後まで取りきれなかった膝の痛みがなくなり、痛みも戻ることなく仕事ができているようです。
膝OA患者のラテラルスラストをU-COGの観点から見たコラムはこちら
今回のように痛みがスッキリとりきれない患者さんに遭遇することもあるのではないでしょうか?
ご紹介した例は膝の痛みでしたが、その他の部位でもあると思います。
今回の膝の痛みの場合、膝蓋下脂肪体や膝後方関節包内側組織、膝窩筋の滑走不全など膝関節局所の問題が残存していて、痛みが取りきれていない可能性もありますが、局所から離れて全体から診ることで負荷を増やしている原因を見つけることができたと感じています。
最後のもうひと息、痛みがスッキリ取れない時、こんな例もあったなと思って考えていただけると幸いです。
西島勇気



