エクササイズの形を伝えることはゴールじゃない
【エクササイズって一体何でしょうか?】
あるエクササイズの形を覚えると、形を覚えた先生は、ゴールがそのエクササイズの形ができたかになります。
こんな恐ろしいことはありません。
そして、こんな恐ろしいことが世の中にとんでもなく多くはびこっています。
その決められた形の中で、正しいか、正しくないかの判断をいつの間にかしています。
一番大事なことは一体何だったのでしょうか?
僕たちは、大切な患者さん、大切な選手から痛みや悩みを取り除いて、そして時にはパフォーマンスを上げることをさせていただきたいと願っています。きっと先生方みなさん同じだと思います。
「とってやる」「上げてやる」なんて想いの人はいないことを願います。
その想いが本来の僕たちのスタートだと思います。
それは患者さん、選手の声に耳を傾け、そして体の声に耳を傾けることで始めていろいろなことがわかっていきます。
評価の大切さは僕はセミナーをやらせていただいているぐらいなので、ものすごくわかっています。
ですが、評価の前にこの想いがあることが大前提のような気もします。
この「耳を傾ける」ことで始めて、本当に感じている痛み、悩みが見えてきて、やっと「じゃあこの評価をして確認しよう」となるはずです。
先週ある選手のところへ行ってきました。
その選手はバレーボールで、関東1部に所属し、U23やユニバの代表候補に選ばれるような選手です。
一度この動画を見てみてください。
これは何かのトレーニングをしてもらっている動画ではありません。
これはこんなことから、動画撮影に至りました。
先週、「(いついつ)体のチェックお願いします! 今回はトレーニングもお願いします!」
と連絡が来ました。前回体のチェックしたのが2か月前です。
痛みの訴えは今回なかったので、「ん?珍しいな」となりました。
この時点で、「何かあるな。たぶん調子が悪いか、何かもやもやしているか」となります。
まあ、なんでもできるように準備しておこうとその日を迎えました。
訴えは、
1.スパイクが決まらない
2.胸椎の回旋が出ないから、テイクバックで右肩が下がる
3.打つ時に左肩が下がる
4.決定率が下がっている
5.チームで計測したときに、瞬発力などはチームで1番で得意だったジャンプ力が5番だった。
という問題でした。
僕たちは、コーチではないのでフォームの修正をすることはしないと思います。
ですが、体の使い方は修正できるし、それが僕たちの存在意義かとも思います。
僕がこの5つを聞いてその時考えたことは、
「じゃあ、何したい?」
この質問でした。
そして、
「ジャンプを上げたい」
これが答えでした。
この選手としては、まず得意だったジャンプが下がってきていること、そしてそれがアップすれば打点が高くなって、スパイクが決まって、そうすれば数字として出てくる決定率が上がる。
こんなことを考えたと思います。
僕がイメージしたのは全く同じ「ジャンプ力を上げよう」だったのですが、僕の答えの中身はちょっと違いました。
ジャンプ力が下がっている理由が必ずあるはず。それがまず何かをチェックしよう。そしてテイクバックで右肩が下がるのはきっと胸郭の柔軟性じゃなくて、右肩を引くときにそうならざるを得ない理由がそこにあるはず、本人が胸椎の動きが悪いとはきっと言わないから、誰かに何かを言われたんだろう。そして打つ時に左肩が下がるのも、その瞬間の問題じゃないはず。きっとそれがジャンプ力を下げている理由とつながるなと。
こういう時に大事なのは、物事の本質がどこにあって、問題は本当に5つなのか、本当は1つなのかを見極めること。
そして、その本質の解決方法は、僕が持っているのか。持っていないのか。
その持っているものの出し方は、どうすれば一番相手の心に届くことができるのか。
こんなとこでしょうか。
で、ずっと一緒に3年前からトレーニングしてきたので、まず先ほど感じた事があって、体の評価をし始めました。簡単にいうと、もっと悪いアライメントの時があります。なので、肩が下がるうんぬんは、静的な体のアライメントは上半身に問題がない事がわかります。で、これはジャンプする前の踏み込みの問題だなと大体わかってきます。「わかったよ大体。大丈夫だわ。今日何とかなると思うよ。これ覚えてる?こんなんやったよね、ちょっと試しにやってみよっか!」なんて、軽い感じでやってもらったのが、先ほどの動画です。
で、僕の動画での評価がこれです。
1.下腿の前傾が強い
2.そのため膝関節にかかる床反力はどんどん膝の屈曲を増大させる
3.膝関節の伸展筋が頑張りだす
4.距腿関節にかかる床反力は足関節の背屈を増大させる
5.そのため足関節の底屈筋が頑張りだす
6.これらが原因で地面の接地時間が長くなり、腱反射でのジャンプができなくなる
7.この感覚が今の普通だとすると、スパイクの踏み込みで深く入りすぎて、スパイクの時にかぶる
(かぶるとは、ボールより体が前に行ってしまい、ジャンプがやや後方に飛ぶ必要が出てきて、ボールに当たる位置が後方になること)
追記:2.そのため膝関節にかかる床反力はどんどん膝の屈曲を増大させる
この部分が、歩行分析でも、動作分析でもとても大切になってくる部分です。掃除機を右手でもって、右足を前にしながら掃除をするその姿勢は、右足を出した際に、体重が右足足底にかかり、そこから床反力が身体重心に向かって帰ってくる。その時の、右ひざに対しての床反力のベクトルを見れば(イメージすれば)、膝は曲がろうとするのか、伸びようとするのかがわかり、大腿四頭筋にかかる負担なのか、ハムストリングスにかかる負担かがわかる。これは同じ動作の時に、ほかの部位の考え方も同様で、例えば同じ動作で、腰を考えるなら、身体重心に向かう、ベクトルよりも腰部が後ろにあれば、腰部屈曲方向に力は働き、それを支えることができない、背筋と一緒に働く腹筋群がなければ、腰椎の後方へのストレスは増大するといった感じで考えることができます。大切なのは、この考え方を持っているかです。この考え方を持っていないのに、スポーツ動作を分析することはできないのです。逆に、持っていればどんな動作も分析することが可能です。
こんな感じです。
こうなると、ジャンプは高く跳べません。
スパイクのジャンプの種類は、アキレス腱の伸張反射と考えています。
それが、接地時間が長くなることで、筋による力でのジャンプが強いられます。
こんな感じの選手は、四頭筋の肥大と、ヒラメ筋の肥大、そしてアキレス腱周囲の浮腫感、滑走不全の感じがでます。
そして評価で、下半身はまさにアキレス腱周囲のこの感じがあったので、ジャンプをみて一致するわけです。
それをもとに、エクササイズに取り掛かります。
今必要なエクササイズは、「ジャンプ力はこれをやれば上がるよ」ではなく、「もう一度感覚を掴み直そう」です。
そして、ジャンプの感覚を一緒に確認。どうすると、どうなるのか、上半身下半身の重心の関係、腕振り、股関節の使い方を指導していきます。
そして、そこにいくつかのレベルを上げたエクササイズをやっていき、ある程度の負荷でもその感覚が正しいことを伝えていきます。
そうしないと、次の日からバレーで活かすことはできません。
で、数か所問題のあった部分をセルフでどうするかの指導と、1週間に何をどれだけやるかをお伝えしました。
次の日、「今日練習試合でジャンプ意識したらスパイクの決定率、効果率がめっちゃよくなりました!今気づけて良かったです!笑」とメールが来ました。
結局、エクササイズありきだとこの答えになっていなかったかもしれません。
胸椎の回旋を出すようなこと、左肩を上げるようなことは全くやっていません。
やったのは、選手の得意なジャンプを思い出させたのみ。
そのために必要なエクササイズを提供させていただきました。
エクササイズとはいったいなんなのか?
エクササイズ=ゴールではない。
これがもっと広まるべきかなと思います。
髙木慎一(たかぎしんいち)【柔道整復師】
Athlete Village浜松代表
アライメント・姿勢・歩行動作を総合的に分析し、その方に必要な
クライアントはパフォーマンスを上げたい小学2年生から、膝の痛