先生の『姿勢評価』、変わります。なぜ『骨盤』から見るのか?
~静的アライメントと動的アライメントをどう見るか~
1. 姿勢評価のスタートラインに「骨盤」を置く
姿勢を評価する際に
「どこから見るか」は非常に重要なポイントである。
足部の接地や膝のアライメント、胸郭や頭部の位置といった要素が姿勢に影響を与えるのは言うまでもないが、
それらの中心に位置し、
体幹と下肢をつなぐ「骨盤」は、姿勢の基準点として非常に重要な部位である。
静的な姿勢評価では
骨盤の前傾・後傾や回旋などのアライメントを把握し、動的な評価では歩行時や片脚支持時の骨盤のコントロールを観察することで、隠れていた機能不全や代償パターンが浮き彫りになる。
今回は、姿勢評価における骨盤の役割と、
静的・動的に評価する際の観察ポイント、
そしてそこから導かれる臨床的な示唆について掘り下げていきます。
2. 静的アライメント評価における骨盤の見方
まずは、立っている状態の骨盤を観察し、構造的な土台を把握しましょう。
● 骨盤の前傾・後傾評価
骨盤の傾きは、立位姿勢の評価において最初にチェックすべきポイントの一つ。
代表的な触診のランドマークであるASISとPSISを用いて、矢状面上の骨盤傾斜を評価する。
ASISがPSISよりも下に位置すれば前傾、同じ高さ〜上であれば後傾と判断される。
注意したいのは、
見かけの傾きが必ずしも骨盤の実際の機能を反映していないことがある点。
例えば、腰椎の前弯が過剰な患者では、骨盤そのものが大きく前に傾いているように見える場合があります。
しかし実際には、骨盤帯の可動性が乏しかったり、支持に必要な筋(腹筋群や殿筋群など)の働きが低下していることも少なくありません。
つまり「見かけ上の骨盤前傾」と「骨盤がしっかり機能している状態」は必ずしも一致しないため、評価の際には注意が必要です。

●骨盤の左右の回旋評価
患者を立位とし、
両側のASISを後方から把持することで、骨盤の回旋状態を評価する。
前方回旋している側のASISは、対側に比べて相対的に前方に位置し、触診時には指が深く引っかかるような感触となるのが特徴である。
この感触は、骨盤帯の左右非対称性や仙腸関節のモビリティの偏りを示唆する指標の一つとなる。
●骨盤の左右の高さ評価
患者を立位とし、
後方から両側の腸骨稜に触診を行うことで、骨盤の高さの左右差を評価する。
触診時に一側の腸骨稜が対側に比べて明らかに高位に触知される場合、
その側の骨盤が相対的に骨盤高位となっている可能性がある。
この所見は、股関節の内外旋位、下肢脚長差、仙腸関節の可動性変化、あるいは機能的側彎の影響を受けて出現することがあり、
単独で判断せず、全体的なアライメントとの関連性を併せて評価することが重要である。

骨盤評価のポイントはコチラの2つへ↓
https://arch-seminar.com/first_posturalanalysis/
⚠静的評価で見落とされがちなポイント⚠
•左右の骨盤高位に惑わされすぎない
(荷重差・股関節内旋/外旋の影響も考慮)
•骨盤の回旋は、胸郭と連動して評価する
つまり、静的アライメントはあくまで「初期仮説」を立てるための材料にすぎない。
そこに動的評価を重ねることで、見えなかった機能不全が明らかになる。
3. 動的アライメント評価で見るべき骨盤の“動き”
● 動作における骨盤評価
・骨盤回旋テスト
骨盤の水平面での回旋可動性(特に仙腸関節周囲のモビリティ)と、左右差の有無を評価する。
立位で行うことで、
左右の骨盤回旋運動の量や質、代償動作を観察する。
骨盤が滑らかに回旋しているか、制限がないかを評価する。


・骨盤swayテスト
骨盤帯の側方移動に伴う骨盤移動量の左右差を評価することで
骨盤周囲の動的コントロールの状態を把握する。
このテストは、
歩行時や片脚立位時の骨盤安定性の低下を推察するヒントになり、股関節や体幹との連動性の評価にも有効。
骨盤swayテストでは、
体幹の側屈で代償する動きが現れるケースが多く、それを除外した純粋な骨盤のコントロールを見ることが重要。

● 歩行での骨盤評価
歩行時、骨盤は三次元的に動く。
前後傾(矢状面)、側方傾斜(前額面)、回旋(水平面)の三方向すべてが、
片脚支持相・遊脚相に応じて連続的に変化する。
この動きがスムーズであれば、股関節・体幹の筋群は効率的に働き、腰部や膝関節に余計な負担をかけずに済む。
評価では以下のような動きに着目する。
•骨盤側方swayによる骨盤挙上
→ 中臀筋機能(トレンデレンブルグ徴候)や股関節安定性の不足の指標(水平面)
https://arch-seminar.com/gaitanalysis/%E6%AD%A9%E8%A1%8C%E6%99%82%E3%81%AE%E9%AA%A8%E7%9B%A4%E3%83%BB%E8%82%A1%E9%96%A2%E7%AF%80/%E4%B8%AD%E6%AE%BF%E7%AD%8B%E6%A9%9F%E8%83%BD%E4%BD%8E%E4%B8%8B%E3%81%A8%E6%AD%A9%E8%A1%8C%E8%A9%95%E4%BE%A1/
• 踏み出し脚、蹴り出し脚
踏み出し脚は下肢屈曲相(遊脚相)が長い側であり、骨盤前方回旋位を呈しやすい。
一方、蹴り出し脚は下肢伸展相(立脚相)が長い側で骨盤後方回旋位を取りやすい。

次に、実際の歩行場面を提示します。
下肢・骨盤の回旋差を踏まえた場合、
以下の写真から、左右どちらの脚が踏み出し脚でしょうか?


正解は...
右が踏み出し脚(左が蹴り出し脚)です。
踏み出し脚側では、IC〜LR時の骨盤前方回旋が、蹴り出し脚側の同時期の前方回旋より大きく前方回旋しているため、テーピングの印が大きく外方へ移動しているように観察されます。
このように、歩行評価の際にテーピングをマーキングとして活用すると、
骨盤や体幹の動きが視覚的に捉えやすくなるためおすすめです。
歩行時の骨盤回旋についてはコチラ↓
4. 骨盤評価を施術につなげる臨床的視点
骨盤の静的・動的評価を行う目的は、
「原因を特定する」ことではなく、「介入方針を導く」ことである。
【臨床例:片側性(左側)筋・筋膜性腰痛】
•静的評価:左骨盤後傾(ASISはPSISと同じ〜やや上)
•動的評価:骨盤回旋テストにて左前方回旋量が右前方回旋量より大きい
• 歩行評価:左踏み出し脚、右蹴り出し脚と判断
•仮説:左骨盤後傾・股関節外旋位→左骨盤前方回旋→左腰背筋膜伸張・回旋ストレス→左腰方形筋や左起立筋の圧迫
•対応:
手技→
左ハムストリング、左内閉鎖筋、大臀筋下部(骨盤後傾、股関節外旋要素の改善)
左腰方形筋、起立筋のリリース(筋の滑走不全に対する改善)
運動療法→
・左ハムストリング、股関節外旋筋のストレッチ
・ヒップリフトエクササイズ
・スクワット
このように
静→動→仮説→アプローチという流れを明確にしておくと、
姿勢評価が「現場で使える武器」へと変わっていく。
5. 姿勢を“全体から捉える”ための起点として
骨盤は、体幹と下肢をつなぐ“中継地点”であり、
静的にも動的にも姿勢バランスの中核を担う存在です。
骨盤のわずかな傾きや捻れが、上行性・下行性に影響を及ぼし、頭部の位置や脊柱のカーブ、膝や足部の配列にまで影響することは少なくありません。
では、姿勢全体を評価するうえで、
どこから見始めるべきか――
その“起点”として骨盤を捉えることで、構造と機能の両面から全身の繋がりを読み解くことができます。
たとえば骨盤前傾を呈している患者がいたとして、
その背景には腹筋の弱化だけでなく、足部の過回内や股関節屈筋群の短縮、あるいは胸郭の可動性低下など、複数の要因が絡んでいることがあります。
骨盤はそれらの“結果”であると同時に、
周囲に“影響を与える起点”でもあるのです。
つまり、骨盤を見るということは、単に骨盤の位置を評価するのではなく、全身のバランスをどう保っているかを読み取る第一歩になります。
静的アライメントで構造的な土台を把握し、
動的アライメントで機能的な連動を確認する。
そうした視点を持つことで、私たちは「局所にとらわれない姿勢の全体像」に近づくことができます。
【まとめ】
あなたは骨盤を“見て”いますか? “動き”を捉えていますか?
骨盤アライメントの評価は、
腰痛や姿勢不良、スポーツ障害といった症状に対して、単なる「局所の異常」を探すだけでなく、動きの背景にある全身の連動性を見抜くための重要なステップです。
では、あなたは普段の評価でこんな視点を持てていますか?
・静止立位だけで骨盤の状態を判断していませんか?
・歩行やスクワットなど、
・動作中の骨盤のコントロールに目を向けていますか?
・骨盤の傾きや回旋に対して、
・「なぜそうなっているのか」を掘り下げていますか?
評価の精度を高めることは、
施術やエクササイズの「的確さ」や「優先順位」に直結します。
骨盤は体幹と下肢の中継地点。
だからこそ、骨盤を“見る”だけでなく、
“どう使われているか”を観察する視点が、今後の臨床に深みをもたらしてくれるはずです。
明日からの臨床で、あなたはどんな骨盤の「動き」に注目しますか?
柔道整復師として日々臨床に携わりながら、少しずつ「治せる」実感を得られるようになってきました。
とはいえ、すべてがスムーズにいくわけではなく、症状の複雑さやアプローチの選択に悩む場面も少なくありません。
そんな中で、「評価」に立ち返ることが自分の中での軸となり、治療方針を整理するヒントになることを実感しています。
このコラムが、同じように悩みながらも患者と真剣に向き合う先生方の一助になれば幸いです。
スポーツラボ鍼整骨院 滝ノ水
藤田晃生












