外反母趾とパターン
【その外反母趾見抜けていますか?】
外反母趾と聞くと、扁平足で内側に体重がかかりすぎてるんでしょ?
もう少し踏み込むなら、距骨下関節が回内して、横足根関節が外転してるんでしょ?とお考えの方、きっと多いと思います。
11年間、左の外反母趾が歩いていてもスパイクに当たって痛いという、20代社会人ソフトボール選手(写真1)。
インソールも、スパイクもオーダーして使用してきました。
すごいですよね?
社会人までソフトボールができるという選手は、ほんのひと握りの選手のはず。
でも、競技人生のほとんどを外反母趾の痛みとともにそのステージまで続けられているのです。
<写真1>
インソール作製前
さて、この選手は、なぜこれまで改善してこなかったのでしょう?
きっと外反母趾と聞いて、みんな前途した、「距骨下関節が回内して、横足根関節が外転してるんでしょ?」のようなことを連想したからではないでしょうか?
一般的には、距骨下関節が回内し、横足根関節が外転し、いわゆる偏平足となり、第1中足骨に対して基節骨が外反(外転)することが多い(図1)とされていますが、
<図1>
ST関節回内・MT関節外転と外反母趾の関係(カパンディより引用)
実はこの選手のように、toe-in傾向でかつ下腿が外方傾斜し、外側荷重傾向の場合でも起こりうるのです。
この場合のポイントは、踵離地時(写真1右)において、基節骨に対して第1中足骨が内反(空間上の中足骨内転(図2))するという見かたになります。
<図2>
中足骨内転と基節骨外転と外反母趾の関係(臨床足装具学より引用)
つまり、基節骨に対して第1中足骨が内反(内転)することで、MP関節の外反角度が大きくなるという理解です。
toe-inや中足骨の内転といえば、横足根関節は内転位、いわゆるハイアーチに似たアライメントでも、外反母趾の症状が起こるということを念頭に置かなければいけません。
そうです、外反母趾=内側アーチアップではいけないのです。
「歩行動作における荷重位置の見かたのヒント」
この選手の場合、いわゆるアーチがつぶせるように、内側荷重化、下腿内方傾斜(外方傾斜の軽減(写真2))する必要があります。
<写真2>
インソール作製後
繰り返しになりますが、局所的には、踵離地の際に基節骨に対して、第1中足骨が内反(内転)しすぎないようにすることがポイントになります(写真2右)。
これは一般的な、世に言われている外反母趾の治療方向と全く逆なのです。だから、11年間も・・・ということなのでしょうか?
では、実際に、外側/内側荷重、下腿傾斜を歩行動作の中でどう見るのか、そのヒントをお伝えします。
この選手に限らず一般的な見かたとしてですが、足部に対して、下腿の外方傾斜が認められる場合、仮に偏平足傾向であっても、『体重が内側にかからない』や『親指に体重が乗らない』など外側荷重感を訴えることが多いです。
その時、皆さんはその訴えから足部や下腿のみに着目して、評価・アプローチを決めていないでしょうか?
もしそこで狙い通りに変化が出れば、それで問題はありません。
しかし、狙い通りの動きの変化・症状の変化が出ないと思うのであれば、『股関節・骨盤』に着目することをお勧めします。
簡単に表現するなら特に、『大転子』のあたりです。
『大転子』が立脚中期において外方へswayするその量やタイミングがポイントです。最初は、外方へのsway量だけでよいかもしれません。
この足部に対する大転子の外方へのsway量が大きいと、それに伴い下腿の外方傾斜も大きくなることが予想されます(写真3・写真4)。
<写真3>
インソール作製前
<写真4>
インソール作製後
つまり、下腿外方傾斜や外側荷重感の原因は、足部だけでなく、股関節(大腿骨・骨盤)の問題・外方swayでも、生じるということです。この外方swayが起こると股関節の肢位は内転位?外転位?…となれば、その修正にはどんなエクササイズが必要?などいろいろなアプローチが浮かんでくるのではないでしょうか?
そして…その股関節・骨盤に対するアプローチを行い、外方swayが改善した!
これで満足してはいけません。最終的に確認すべきは、ここで足部と下腿外方傾斜・外側荷重感など、本来の部分・局所に立ち返る必要があります。いきなり、股関節・骨盤・体幹(全体評価)ではなく、『局所評価→全体評価→局所評価』という流れが、重要だと思います。
歩行動作の見かたは、多岐にわたり非常に難しい部分もあります。
また皆さんも感じられたかもしれませんが、今回の写真のように、動画を静止画として切り取って見てみると意外と分かりにくくなる場合も多いのが、正直なところです。
その理由としては、動画でみると、動きの流れ(加速度)が反映されますが、静止画では、それはわかりません。例えば、一瞬だけ大転子が外方にswayするのか、長い時間swayしているのかは表現されないという事です。また、三次元を二次元化していますから、特に重要な回旋量の把握は難しくなります。
つまり、動作分析はとにかく『患者さんを前にして』とにかく繰り返す・トレーニングすることが大事だと思います。しかし、そう簡単に身に着く技術ではないことも確かです。でも、習得した動作分析技術は、局所だけのアプローチでうまくいかないケースには、その力を発揮してくれることでしょう。
相谷芳孝(あいたによしたか)【理学療法士】
あいたにインソールとからだの研究所代表
さいとう整形外科リウマチ科 理学療法士
免許取得後、総合病院にて整形外科疾患を中心にさまざまな患者さまに対応。その中で、『唯一地面に接する足部』の重要性を感じ、インソール療法(入谷式足底板®)を学ぶ。 また、人間の最も表層に位置する『皮膚・筋膜』にも着目し、研鑚を深める(皮膚運動学、三輪書店、執筆協力)。 さらに整形外科疾患への対応を追求するため、整形外科クリニック勤務となり、プロスポーツ選手から子供・一般・高齢者の方まで幅広く対応。現在は、クリニック勤務と並行し「あいたにインソールとからだの研究所」を設立し、代表を務める。